自分の部屋に入り、ドアの傍に置いたスーツケースの取っ手を手にするとぐるっと部屋の中を見渡した。


「紫月・・・ありがとう・・・」


葵は小さく呟くと階下へ降りて行った。


小さなスースケース一個に榊が眉を顰(ひそ)める。


「葵ちゃん、とりあえず荷物は一つだけ?」


「・・・はい」


すべてを処分してもらう事を榊は知らない。


宇津木が何か言おうとした所へ葵が宇津木の前へ歩み寄った。


「宇津木さん、ありがとうございました」


「葵様・・・・」


自分の孫と同じ年の少女が大変な人生を歩んでいる。


もう会えないんだと思うと宇津木は目に涙を浮かべた。


「そんな挨拶はいい!早く出て行け!」


リビングルームから叔父が出てきて葵に怒鳴った。