「やった、あたし、中野くんの隣の席だよ!」

引いたばかりのくじを嬉しそうに見せびらかす女子生徒。

周囲の女子は私と彼女を見比べながら、気まずそうな顔をしていた。

気づいていないのは彼女だけだ。

「ちょっと、あんた……」

彼女へ近づいてゆく私に気づいた子が、喜んでいる彼女をつつく。

「なに?」

喜びに水を刺された彼女は、不満げに友人を見て、そして私に気づいた。

「あ、阿佐ヶ谷さん……」

青ざめた顔で私を見る彼女に微笑むと、その手に握りしめられる紙片に目を移した。

「無理にとは言わないのだけれどね」

「あの……」

一歩近づくと、彼女は気まずそうに目をそらした。

「わかっているわよね?」

「……はい」

こうして私は、『偶然にも』伶音くんの隣の席を勝ち取ることが出来たのだった。



席替えを制した私は、堂々と伶音くんの隣の席に座った。

「伶音くん、よろしくね」

「あれ、俺の隣の席、柚姫? やった、よろしくね」

伶音くんは、無邪気な微笑みを私に向けた。

そこにどんな意味も含まれていないのはわかっているのに、喜んでくれたことが嬉しくて、微笑みを向けてくれたことが嬉しくて、胸が高鳴るのを止められない。

無意識に、一人笑ってしまう。

「えっとー、再来週体育祭があるんすけど。そのの参加種目を、今から決めたいと思いまーす」

喜んでいると、前から怠そうな声が聞こえてきた。

制服を着崩した男子が、資料を見ながら話している。

天然パーマの黒い短髪、細身なのにスラリと高い身長。

普段伶音くんとよく一緒にいる男子だ。

伶音くん以外の男子には全く興味が無いのであまり覚えていないのだが、名前は確か……千駄ヶ谷、ええと……千駄ヶ谷ーーーー

「優、それってさ、一人何種目とか決まってんの?」

伶音くんが教壇の千駄ヶ谷くんに声を掛けた。

そう、千駄ヶ谷優だ。

私がひとりで思い出している内に、話は進んでいた。

「被ってなきゃいくつでもいいと思う」

「マジ? やったあ」

そう、体育祭だ。

6月は体育祭があるのだ。

運動が苦手な私には憂鬱な行事だ。

だが。

「楽しみだね、柚姫」

私に向けられる無邪気な笑顔。

私も、小さく微笑みかけた。

今年は、楽しい体育祭になるはずだ。