蝶の様に儚く、蜘蛛の様に冷たく

小さな舌打ちと共に多乃目鈴(たのめ れい)は現れた。
「人の、しかも女性の部屋に勝手に入るなんてどんな神経してるの?寧ろ尊敬するよ」
「酷い評価だな。あの二人に気づかれなかったんだ。褒めてくれたって」
「気づいてたよ?二人共気づかないふりをしていたもの」
「えぇ…」
がっかりした様子で頭を掻く。

多乃目鈴―――19歳の幹部で、「金属操作」の能力を持つ。
白のワイシャツの上に黒のスーツを着て、黒の長ズボンとブーツに合わせている。着崩されたワイシャツから見える首筋にはクロスしているチョーカーを付け、黒の手袋をしていた。
紫が混じった様な黒の髪は少しぼさっとしている。瞳は濃い紫色だった。

いつも見るたびに彼の人に似ていると思っていた。

「…で?何の用なの?」
「いや、特に用はねぇんだけどさ」
「じゃあ、」
「じゃあ?」
ほんの少し間を置いて言った。
「とっとと出ていきなさい」
「んでだよ」
「っ、それは、」
息が詰まった。
理由はあった。
それは、

「”漣さんと重なるから”か?」

ビクッとして鈴を見た。
瞳には小さな怒りのようなものが見えた。
それは、私に向いているのか、それとも。
「…図星か」
「…」
無言で下を向いた私の腕を鈴が強く引っ張る。
「なっ、」
突然のことにバランスを崩した私の視界はくるりと回り、気づくとソファーに押し倒されていた。
「何するん――」
「…なぁ」
冷たい瞳に身体が固まるのを感じた。
心臓が早鐘を打つ。
「なんでそんなに彼の人にこだわるんだ?」
「っ、それは…!」
「”当の昔に死んだ人間”だぞ?」
分かっていた。
でも、
「…ら…れは…に?」
「は…?」
「なら!ならあれは何!?あの私宛のプレゼントは!?」
「っ…」
分かっていた。
彼が死んでることくらい。
その現実が心に刺さる。
涙が一筋流れた。
「ねぇっ!教えてよ!!あれは―――」
「…なぁ」
「何!っ、」
私は固まってしまった。
鈴の瞳が、余りにも悲しげに揺れていたから。
「いつまで過去に、あいつにこだわるつもりなんだよ」
答えられない私をまっすぐ見ながら言った。
「そんなにこだわったって何も変わらないんだ。過去は絶対に変わらないんだ…!戻りたくても戻れない。俺達は前に進むしかねぇんだよ!お前だって解ってんだろ!?なのに、なのになんで…!」

お前は前に進もうとしないんだ?なんで俺にあいつを重ねんだ!?

鈴の剣幕とそれでいて悲しげな瞳に動くこともできない私が辛うじて発することのできた言葉は「ごめん」だった。
鈴は気まずそうに眼をそらした。
「こっちこそ…ごめん。困らせるつもりはなかったんだ…。」
すっ、と私から離れ、部屋を出ていく鈴を呆然と見送った。
一つの現実だけが、心に突き刺さった。










 やっぱり私は独り、いまだに過去のあの日々から前に進めていないのだ。