蝶の様に儚く、蜘蛛の様に冷たく

 扉の前に立って、ノックする。
 中からの反応を待って扉を開ける……のが何時もの手順だったが……
「遅くなってすみません!!」
 黒い髪に濃い赤色の目をした男性がビクッとする。
 左眼のモノクルが光った。
「びっくりするじゃないか、茜君。私だっておじさんなのだよ?ねぇ?」
 此処は首領(ボス)、月影蜻蛉(つきえいかげろう)の執務室。
 私達、幹部の執務室のひとつ上の階にある。
「首領がおじさんなのは知ってます。それより、遅れてすみません。目覚ましが電池切れで止まりまして…」
「それはしょうがないね。まぁいいよ。今から現場に向かってくれたまえよ」
「はい。……所でどんな任務なのでしょう?」
「あぁ、忘れていた」
 えぇ…
 …まぁ、よくあることだけどさ。
「今日の任務はね、此処の倉庫で行われている敵対組織の取引現場への襲撃なのだけどね」
「はい」
「もう、終わってる気がするのだよねぇ」
「…と言うと?」
「終わってるか、確認してきて?」
「でも、連絡がくるのでは?」
「行ったメンバーが、なのだよ」
 あー、分かった気がする。
「分かりました。確認してきます」
「頼んだよ。…あ。茜君」
「なんでしょう」
 首領はニヤリと笑って言った。
「生きているのが居たら連れて来て拷問班に回してね。丁寧な対応をしてあげるように、ね?」
「…勿論です。首領」
 二つ血塗れの白衣が目の前をちらつく。
 私は執務室を出た。