空腹は最強の調味料である。
誰が言った言葉かは知らないが、実際にそうだと思う。

「茜、おかわり」
「ホントにお腹すいてたんだね…。はい。」
「ありがとう!」

茜が朝食を食べ終わってから30分。
兎に角、お腹がすいていた私は久し振りにゆっくりと朝食を摂っていた。
何時もの倍は食べてる。それほど美味しいのだ。

「そういえば、茜。今日は仕事は無いのか?」
「有るけど…。午後からだから大丈夫、かな。…多分」
「多分って…」

適当だなぁ…と思いつつ、まぁ、何かあれば連絡が来るか、と思い直す。
……私も適当だな、と少し思った。

「茜。午後からの仕事ってなんだ?」
「敵組織の殲滅戦。と言っても少し前に潰した組織の残党狩りみたいな感じだけどね」
「…その組織って?」

ほんの少しだけ祈る様に聞いた。
昨日の今日でいくら居心地の悪い組織だったとはいえ自分のいた組織に関連する組織を潰すのは気が引ける。

「えーと…。何だっけ。まぁ、蒼音のいた組織ではないから大丈夫だよ」
「そっか。ならいい」

少しだけほっとした。
でも、いつか自分のいた組織を潰す事になるだろう。

「もし、蒼音のいた組織を潰す事になったら、ごめんね」
「…え?なんで…」

何で茜が謝るんだ?と言いかけて止めた。
悲しげな瞳で遠くを見ていたその瞳に何も言えなくなった。

「…昔、漣さんも同じような事を他の人に言ってたんだ。仲間にした人のいた組織を潰す事になった時に、ね…」
「そうだったのか……」

聞いていないのに、私の言わんとすることがわかっているようで。
やっぱりこの人も優しい。

「そう言ってくれてありがとう…」
「そんなたいそうな事じゃないよ」
「あぁ」
「さっ!早く食べちゃって!午前中はこの家での生活に必要なものを買いに行くんだから!」

返事を仕掛けて、ん?と思った。

「この家…?」
「うん。あれ?いってなかったっけ?」
「聞いてないぞ!?」

昨日、確かに言っていた。
『そのうち自室が与えられる』、と。

「今日からこの部屋で一緒に住みます」
「…自室は?」
「空き部屋があるから、そこが蒼音の部屋」
「あ、あぁ。そうなるのか…」

やっと理解した。
自分の受け取り方が間違っていた。

「やっぱり一人で暮らす方が良い?」
「いや、大丈夫だ」

バレてたぁ…
思考が読まれていたことに驚きつつ、そりゃそうだとも思った。
そもそもこの世界である程度の地位を獲得できる人間はそういう能力を持っている。その中には異能も含まれる。

「ふぅん…。私は嬉しいけどなぁ」
「どういうことだ?」
「だって、帰ったら誰かが居て、おかえりって言ってくれるんだよ?それに独りじゃないって嬉しくない?」
「…それもそうだな」

──家に帰ると誰かが居て、暖かく迎えてくれる。
  この世界じゃ普通は有り得ない。
  違いますか?蒼音さん。

あの日と、あの人とほとんど同じ台詞。
共感出来るあの台詞。

「………も…って…な」
「何か言ったか?」
「…いいや。独り言だよ」
「そうか」

卵焼きを口に放り込む。
この世界はどうやら狭いらしい。
同じ味の卵焼きを食べたことがある。…多分。