「おい…。大丈夫、なのか…?」
「ん?あぁ、問題ないよ。似合ってる」
「可愛いよ!春もこれ、いいと思うよ!ねっ!風音!!」
「うん。いい、と、思う」
「私の見立てた通りだねぇ。にしても、可愛い子だこと」
一番上から、蒼音、私、春、風音、姐さんこと樋口莉乃(ひぐち りの)だ。
何故、こうなっているのか。
それは数時間前に遡る。
◇◆◆◇◆◆◇
約四時間前、私と蒼音は首領の部屋にいた。
蒼音は緊張した面持ちで首領と向かい合っていた。
沈黙を最初に破ったのは首領だった。
「確りと話すのは初めてだね。蒼音君。…いや、神楽坂君の方がいいのかな?」
神楽坂?
「…誰と間違えているのでしょうか?私は蒼音ですが?」
「そうなのかい?その特徴的な赤髪、一房の髪だけを伸ばし、それの中間あたりをガラス玉で纏める風習。それは数年前に滅んだ暗殺者の家系である神楽坂家のものだと思ったが」
実際、特徴的な髪色と髪形だった。
どこかで見た気がする。
「個人的に赤髪が好きなので、染めたんです。このガラス玉は母の形見で、髪形も母を真似たものです。偶然でしょう」
蒼音の言葉に嘘は見えない。
横目で彼女を見る。
髪は全て赤では無くて所々、青の所もあった。完全に染まっている訳ではないようだ。
首領はと言うと、真意の見えない微笑みを浮かべていた。
「なら、偶然か。間違えて済まないね。うちにも御神楽家出身の構成員がいるんだよね。だから少し敏感なのだよ。気にしないでくれ給え」
「…はい」
私はそのやり取りを静かに見守っていた。
いや、口を挟めなかった。
特に理由はないが、私は何となく黙っていたのだった。
◇◆◆◇◆◆◇
その後も首領の蒼音への質問は続き、事の発端となった首領の一言が出た。
「そうだ。茜君」
「なんでしょう、首領」
「莉乃君と彼女の服を見立ててやってくれないかい?」
「「はい?」」
何故そこで服なのだ。
「いやぁ、だっていつまでもその、前の組織に居た時の格好でいられないだろう?」
「え、まぁ、それはそうですけど…」
「じゃあ決まりだね。莉乃君には私から連絡を入れておこう」
首領…。なんでそんなにノリノリなんですか…。
「…分かりました」
蒼音が微妙な返事をした。
「じゃあ早速行き給え。莉乃君なら可愛い服を選んでくれるよ」
首領には若干そっちのケがあるのかもしれない。
「はい」
「失礼しました」
そうして私達は部屋を出た。
◇◆◆◇◆◆◇
私達はそのまま姐さんの執務室に向かった。
ノックをして声を掛ける。
「姐さん。茜です。入ります」
どうぞ、という声を聞き、部屋に入る。
姐さんは優雅な手つきでお茶を入れていた。
姐さんこと樋口莉乃は私と同じ幹部である。
年は三十五歳。紫色の髪は簪で止めている。
桜と金糸があしらわれた白と青を基調にしている袴を着ている。
和服美人という言葉が似合っている女性だ。
蒼の瞳は彼女の強い意志を宿している様に見えた。
「やっと来たかい。待ちくたびれたじゃないか」
「ごめんなさい。この建物のエレベーターが少なすぎるのが悪い」
「間違っちゃいないね。…で、あんたかい?茜の新しい部下というのは」
突然話を振られた蒼音は少しビクッとして答えた。
「は、はい!蒼音実花と言います。はじめまし…」
「あんた…」
蒼音の言葉を遮って姐さんが話しかけた。
瞳が細くなる。
「は、はい…?」
「可愛いな…!本当に私がコーディネートしていいのかい!?」
「え?は、はい…」
「そりゃ嬉しい!!あんたなら何でも似合うだろう!?」
「え、は、え…?」
蒼音が戸惑っている。
そりゃそうだ。姐さんは可愛いものに目がない。
例えば可愛い女の子とか、熊の人形とか。
また始まった、と私は苦笑いする。
「姐さん。蒼音が困ってるからちょっと落ち着いて」
「そ、そうですよ!私、後で何でも着ますから今は落ち着いて!」
「あ。」
「え?」
あーあ。言っちゃった。
すかさず姐さんが言った。
「それは本当かい?」
「え?は、はい」
「ならば早速!!」
姐さんは早速動き出した。
「あーあ。私知ーらない」
私は近くのソファに座ってその様子を見ていた。
最初は普通に服を選んでいた。
姐さんは、うーん…、とか、これも…等と言いつつ蒼音に着せていく。
蒼音も嫌がらずに渡されたものを着ていく。
そんな平和で静かな部屋に喧騒がやって来た。
「樋口さーん!!…あれ?お取込み中?」
そう。春が来たのだ。
「春!仕事の用事かい?」
「ごめーとーだよ!首領からの仕事だよ~。にしても、皆で何してるの?初めましてさんも居るし」
「あぁ、この娘かい?この娘は茜の新しい部下さ」
「は、初めまして。蒼音です」
蒼音は律儀だなぁって思う。
敵方の中に居るから緊張してるのに自己紹介してる。
「蒼音ちゃんかぁ…。じゃあ、蒼たんって呼んでいい?」
全員が押し黙った。
「…それ、痣と同じですよね?漢字は違いますが」
「桜。それは流石に駄目だ。色々と駄目だ」
「普通に蒼音って呼んであげな」
三者三様の返答をする。
「んー…。じゃあしょうがない。蒼音たんって呼ぶね!」
「蒼音たん……。可愛い呼び名ですね…!」
「えへへっ。よろしくね、蒼音たん!」
「はい!桜さん!」
「桜でいいし、敬語はなーし!!ね?」
「え、あ、あぁ!」
早々に二人は仲良しになった。
なんか、よかったなぁ…。
「さぁさぁ、早く服を選ぶよ。桜も手伝ってくれ」
「はーい!」
姐さんと桜は、こっちの方が…とか、あれがいい、とか言いながら選んでいく。
三十分程経った頃、またまた訪問者が現れた。
「あの、失礼、します。姐さん、いますか?」
そう。風音である。
「風音かい?仕事かい?」
「はい。首領、から。先刻、頼んだ、仕事を、早く、出してくれ、て」
「あー!それ、春が持ってきた奴じゃない?春が持ってく予定だったんだけどなぁ」
「まぁ、いいんじゃない?たまには首領を待たせるのも、ね。第一、蒼音の洋服見立ててくれって頼んだの首領だし。一気に二つの仕事をやれったって…ねぇ?」
そこで、風音が首を傾げた。
「蒼音?」
「うん。私の新しい部下だよ」
「はじめまして。蒼音です」
「はじめ、まして。風音、です。よろしく、ね…?」
「はい!」
やっと蒼音の緊張もほぐれたようだった。
先刻よりもはきはきと自己紹介した。
「それで、なに、やってるの?」
風音はまた首を傾げた。
それに姐さんと春が答える。
「あぁ、これかい?」
「今ねぇ、蒼音たんの服を選んでるの!」
風音が目を輝かせる。
「へぇ、楽しそう。私も、手伝って、いい?かな?」
「良いよね!?蒼音たん!」
「え?ま、まぁ…」
蒼音は少し戸惑いつつも許可した。
こうして、女子三人による蒼音の洋服選びが始まった。
あぁではない、こうがいい、これは、いやこっちで…
蒼音に色々な服を着せていく。
その間、三人は各々のセンスを出し惜しみすることなく議論し、選ぶ。
私はその光景を見つつ、ソファで眠ってしまう。
春に起こされた頃には蒼音の服は決まっていた。
「…似合っているか?」
「…え?う、うん。いいんじゃない?」
「そう、か…」
蒼音は少し照れたように笑う。
黒のホットパンツと緩めのベルト、そして細い右足にはガーターリングがつけられている。
黒い短めのトップスはヒールがなく動きやすそうだった。
黒と白のレイヤードで蒼音の白い肩が強調されていた。
腰程はない髪は纏められている。
首元のチョーカーには黄緑色の人工石があしらわれている。
なんだろう。色っぽい。
そんな感想の所為で蒼音の言葉への反応が遅れた。
彼女単体だったらそれこそ諜報班の、しかも色仕掛けとかそういう系の所に配属されただろう。これだけは断言できる。
「よし。じゃあ、服も決まったところだし。」
「やるべき、事、は、」
「あとひとぉぉぉっつ!」
へ?へ?と混乱する蒼音に姐さんの箪笥に入っていた――今だに何で有るのか解らない――メイド服とか、シスターとか、高校の制服とか…を着せる。
まぁ、そんなかんやで冒頭に戻る。
今、蒼音が着ているメイド服で最後だ。
「はっきり言って似合ってて可愛くて羨ましい。」
「あ、ありがとう…」
「おーい。本音が出てるぞー」
「樋口さーん、それ言っちゃダメだよぉ~」
ふっ、と誰かから笑いが漏れる。
私たちにとってこの瞬間が、この瞬間だけが平和で静かな時間だ。
でも私は知っている
この時間は
この平和な時間がこの闇の世界で
長く続くなんてことは有り得ないと言う事を
「ん?あぁ、問題ないよ。似合ってる」
「可愛いよ!春もこれ、いいと思うよ!ねっ!風音!!」
「うん。いい、と、思う」
「私の見立てた通りだねぇ。にしても、可愛い子だこと」
一番上から、蒼音、私、春、風音、姐さんこと樋口莉乃(ひぐち りの)だ。
何故、こうなっているのか。
それは数時間前に遡る。
◇◆◆◇◆◆◇
約四時間前、私と蒼音は首領の部屋にいた。
蒼音は緊張した面持ちで首領と向かい合っていた。
沈黙を最初に破ったのは首領だった。
「確りと話すのは初めてだね。蒼音君。…いや、神楽坂君の方がいいのかな?」
神楽坂?
「…誰と間違えているのでしょうか?私は蒼音ですが?」
「そうなのかい?その特徴的な赤髪、一房の髪だけを伸ばし、それの中間あたりをガラス玉で纏める風習。それは数年前に滅んだ暗殺者の家系である神楽坂家のものだと思ったが」
実際、特徴的な髪色と髪形だった。
どこかで見た気がする。
「個人的に赤髪が好きなので、染めたんです。このガラス玉は母の形見で、髪形も母を真似たものです。偶然でしょう」
蒼音の言葉に嘘は見えない。
横目で彼女を見る。
髪は全て赤では無くて所々、青の所もあった。完全に染まっている訳ではないようだ。
首領はと言うと、真意の見えない微笑みを浮かべていた。
「なら、偶然か。間違えて済まないね。うちにも御神楽家出身の構成員がいるんだよね。だから少し敏感なのだよ。気にしないでくれ給え」
「…はい」
私はそのやり取りを静かに見守っていた。
いや、口を挟めなかった。
特に理由はないが、私は何となく黙っていたのだった。
◇◆◆◇◆◆◇
その後も首領の蒼音への質問は続き、事の発端となった首領の一言が出た。
「そうだ。茜君」
「なんでしょう、首領」
「莉乃君と彼女の服を見立ててやってくれないかい?」
「「はい?」」
何故そこで服なのだ。
「いやぁ、だっていつまでもその、前の組織に居た時の格好でいられないだろう?」
「え、まぁ、それはそうですけど…」
「じゃあ決まりだね。莉乃君には私から連絡を入れておこう」
首領…。なんでそんなにノリノリなんですか…。
「…分かりました」
蒼音が微妙な返事をした。
「じゃあ早速行き給え。莉乃君なら可愛い服を選んでくれるよ」
首領には若干そっちのケがあるのかもしれない。
「はい」
「失礼しました」
そうして私達は部屋を出た。
◇◆◆◇◆◆◇
私達はそのまま姐さんの執務室に向かった。
ノックをして声を掛ける。
「姐さん。茜です。入ります」
どうぞ、という声を聞き、部屋に入る。
姐さんは優雅な手つきでお茶を入れていた。
姐さんこと樋口莉乃は私と同じ幹部である。
年は三十五歳。紫色の髪は簪で止めている。
桜と金糸があしらわれた白と青を基調にしている袴を着ている。
和服美人という言葉が似合っている女性だ。
蒼の瞳は彼女の強い意志を宿している様に見えた。
「やっと来たかい。待ちくたびれたじゃないか」
「ごめんなさい。この建物のエレベーターが少なすぎるのが悪い」
「間違っちゃいないね。…で、あんたかい?茜の新しい部下というのは」
突然話を振られた蒼音は少しビクッとして答えた。
「は、はい!蒼音実花と言います。はじめまし…」
「あんた…」
蒼音の言葉を遮って姐さんが話しかけた。
瞳が細くなる。
「は、はい…?」
「可愛いな…!本当に私がコーディネートしていいのかい!?」
「え?は、はい…」
「そりゃ嬉しい!!あんたなら何でも似合うだろう!?」
「え、は、え…?」
蒼音が戸惑っている。
そりゃそうだ。姐さんは可愛いものに目がない。
例えば可愛い女の子とか、熊の人形とか。
また始まった、と私は苦笑いする。
「姐さん。蒼音が困ってるからちょっと落ち着いて」
「そ、そうですよ!私、後で何でも着ますから今は落ち着いて!」
「あ。」
「え?」
あーあ。言っちゃった。
すかさず姐さんが言った。
「それは本当かい?」
「え?は、はい」
「ならば早速!!」
姐さんは早速動き出した。
「あーあ。私知ーらない」
私は近くのソファに座ってその様子を見ていた。
最初は普通に服を選んでいた。
姐さんは、うーん…、とか、これも…等と言いつつ蒼音に着せていく。
蒼音も嫌がらずに渡されたものを着ていく。
そんな平和で静かな部屋に喧騒がやって来た。
「樋口さーん!!…あれ?お取込み中?」
そう。春が来たのだ。
「春!仕事の用事かい?」
「ごめーとーだよ!首領からの仕事だよ~。にしても、皆で何してるの?初めましてさんも居るし」
「あぁ、この娘かい?この娘は茜の新しい部下さ」
「は、初めまして。蒼音です」
蒼音は律儀だなぁって思う。
敵方の中に居るから緊張してるのに自己紹介してる。
「蒼音ちゃんかぁ…。じゃあ、蒼たんって呼んでいい?」
全員が押し黙った。
「…それ、痣と同じですよね?漢字は違いますが」
「桜。それは流石に駄目だ。色々と駄目だ」
「普通に蒼音って呼んであげな」
三者三様の返答をする。
「んー…。じゃあしょうがない。蒼音たんって呼ぶね!」
「蒼音たん……。可愛い呼び名ですね…!」
「えへへっ。よろしくね、蒼音たん!」
「はい!桜さん!」
「桜でいいし、敬語はなーし!!ね?」
「え、あ、あぁ!」
早々に二人は仲良しになった。
なんか、よかったなぁ…。
「さぁさぁ、早く服を選ぶよ。桜も手伝ってくれ」
「はーい!」
姐さんと桜は、こっちの方が…とか、あれがいい、とか言いながら選んでいく。
三十分程経った頃、またまた訪問者が現れた。
「あの、失礼、します。姐さん、いますか?」
そう。風音である。
「風音かい?仕事かい?」
「はい。首領、から。先刻、頼んだ、仕事を、早く、出してくれ、て」
「あー!それ、春が持ってきた奴じゃない?春が持ってく予定だったんだけどなぁ」
「まぁ、いいんじゃない?たまには首領を待たせるのも、ね。第一、蒼音の洋服見立ててくれって頼んだの首領だし。一気に二つの仕事をやれったって…ねぇ?」
そこで、風音が首を傾げた。
「蒼音?」
「うん。私の新しい部下だよ」
「はじめまして。蒼音です」
「はじめ、まして。風音、です。よろしく、ね…?」
「はい!」
やっと蒼音の緊張もほぐれたようだった。
先刻よりもはきはきと自己紹介した。
「それで、なに、やってるの?」
風音はまた首を傾げた。
それに姐さんと春が答える。
「あぁ、これかい?」
「今ねぇ、蒼音たんの服を選んでるの!」
風音が目を輝かせる。
「へぇ、楽しそう。私も、手伝って、いい?かな?」
「良いよね!?蒼音たん!」
「え?ま、まぁ…」
蒼音は少し戸惑いつつも許可した。
こうして、女子三人による蒼音の洋服選びが始まった。
あぁではない、こうがいい、これは、いやこっちで…
蒼音に色々な服を着せていく。
その間、三人は各々のセンスを出し惜しみすることなく議論し、選ぶ。
私はその光景を見つつ、ソファで眠ってしまう。
春に起こされた頃には蒼音の服は決まっていた。
「…似合っているか?」
「…え?う、うん。いいんじゃない?」
「そう、か…」
蒼音は少し照れたように笑う。
黒のホットパンツと緩めのベルト、そして細い右足にはガーターリングがつけられている。
黒い短めのトップスはヒールがなく動きやすそうだった。
黒と白のレイヤードで蒼音の白い肩が強調されていた。
腰程はない髪は纏められている。
首元のチョーカーには黄緑色の人工石があしらわれている。
なんだろう。色っぽい。
そんな感想の所為で蒼音の言葉への反応が遅れた。
彼女単体だったらそれこそ諜報班の、しかも色仕掛けとかそういう系の所に配属されただろう。これだけは断言できる。
「よし。じゃあ、服も決まったところだし。」
「やるべき、事、は、」
「あとひとぉぉぉっつ!」
へ?へ?と混乱する蒼音に姐さんの箪笥に入っていた――今だに何で有るのか解らない――メイド服とか、シスターとか、高校の制服とか…を着せる。
まぁ、そんなかんやで冒頭に戻る。
今、蒼音が着ているメイド服で最後だ。
「はっきり言って似合ってて可愛くて羨ましい。」
「あ、ありがとう…」
「おーい。本音が出てるぞー」
「樋口さーん、それ言っちゃダメだよぉ~」
ふっ、と誰かから笑いが漏れる。
私たちにとってこの瞬間が、この瞬間だけが平和で静かな時間だ。
でも私は知っている
この時間は
この平和な時間がこの闇の世界で
長く続くなんてことは有り得ないと言う事を

