「出戻るってなった時に、世間が食べさせてくれるわけじゃないって言ってくれたじゃん。あれ嬉しかった」
母にボロクソに言われ、立派にやってる弟に肩身が狭い気がしていた時にばあちゃんだけは私にうるさく言わなかった。
「だって本当の事じゃないの。世間てのは他人の事には口を挟みたがるし、覗きたがる。そんなの気にしてたらキリがないし、その人が食わしてくれるわけでもない。他人の悪口言ったって必ず自分に返ってくるんだから、気にするより自由に生きた方がいいじゃない。自分の為に生きなきゃ時間がもったいない」
ばあちゃんは昔からそう。父が高校を出て畑仕事を覚え始めると、ばあちゃんは子育ても終わったようなものだから私も好きな事をやる、と言って今の喫茶店を開いたらしい。父の下に妹がいて(つまり私の叔母)、まだ高校生だった。もちろん姑(私のひいばあちゃん)には大反対されたらしいけど。幸い祖父がちゃんと味方についていて、無事開店出来たという。
「ねえ、さっきの押しの一手って何なの。北斗くん、キョトンとしてたけど」
「なつみを好きならちゃんと言わないとダメだし、あんたちょっと鈍感な所あるから。これでもか!ってくらい押さないと伝わらないでしょ」
「…あぁ、そういうこと。そうだね、確かに鈍感だわ」
それはもう認めるしかない。そもそもそれが突然の離婚劇に繋がったんだから。
「バーベキュー、楽しんできなさいな。上手くやるのよ?」
「何を」
「ホクちゃんをガードしてあげなさい。それがあんたの役目でしょう」
そうだった。私は北斗くんの片思い相手って事になってるんだった。一波乱起きない事を願って。

