「それから俺が本当になつみさんを好きなのか疑ってるようだけど、そんな事は俺にしか分からないよ。玉木が本気で俺の事を好きなのかも、それは玉木にしか分からない。そうでしょ?もっと言うと、玉木が今泣いてるのもそう。俺がこれだけたたみかけてるから泣いてるのか、理由なんて玉木にしか分からない」
至近距離で玉木の右手が見えたと思ったら、それは一瞬で俺の左頬にヒットして。バチンと乾いた音がした。
…ヒリヒリする。俺、ビンタされた?
「悔しいから泣いてるんだよ!」
「どうして悔しいの」
涙はどんどんこぼれてきて、でも玉木はそれを拭こうともしないで真っ直ぐ俺を見てくる。
「相楽くんが振り向いてくれない事が悔しくて、もうほとんど意地になってた。それに、相楽くんがどんな考え方を持ってる人なのか、私は全然知らなかった…」
「俺だって玉木がどんな考え方で価値観なのかなんて知らない。振り向いてほしいと思うなら、それを知る所から始めれば良かったんじゃない?」
玉木はようやくバッグの中からハンカチを取り出すと、化粧が崩れないようにそっと顔を押さえた。
「…見た目で決めつけたり、否定したりした事、ごめんなさい」
「うん」
「能瀬くんには明日謝る」
「そうして。蒼、明るいヤツだから声かけられれば飲み会とかよく顔出してるけど、女性なら誰でもってわけじゃない」
蒼はきちんと相手を大事に出来る男だから。
「…相楽くんも、今まで付きまとってごめんなさい。でも相楽くんを好きなのは本当だから。さっきは信じてもらえない事が悔しくて叩いた。ごめんなさい」
俺は玉木がどんな人物なのか全然知らないから勝手な事は言えないけど。根っから悪いヤツなんていないと思ってる。
歩いて行く玉木の背中が小さく見えた。

