「笑い話」

「そう。今はどうしようもなく辛くて苦しい事があっても月日が経って自分も歳を取ると、あんな事もあったなって思うようになるじゃない。自分の中で消化出来るようにもなるし、記憶も薄れていく。なつみもホクちゃんに出会えたから、きちんと消化出来たのね、きっと」


俺がなつみさんに何をしてあげられたかは分からない。なつみさんのお母さんに会った時は火に油を注ぐような事をしてしまったし。でもアレがキッカケで結果的になつみさんを守る事が出来ているならそれでいい。


「でもホクちゃん、ハードワークな彼女を選んじゃったわね」

「それは関係ないです。なつみさんがこの仕事をしてなければ出会ってないので」


なつみさんはここ一ヶ月くらい、ずっと忙しい。春のインフルエンザが流行っているらしく、結局ずーっとインフルエンザが大流行。高齢になるとちょっとした風邪がきっかけで、こじらせたり、肺炎になったり、油断出来ないらしい。この前会った時は本当に疲れ切った顔をしていて、少し痩せたように感じた。


「そうね。なつみが離婚しなかったら、出戻って来なかったら、二人は出会ってないわね」

「もっと言えば、みすみさんと出会ってなかったら今この状況も無いです」

「縁ていうのは不思議ね。良くも悪くも色んな巡り合わせがあって、その全てが経験になっていく。なつみも結果的には良かったんじゃないかと私は思う。ホクちゃんに出会ったんだから」


玉木があの日、俺を尾けて来なければなつみさんと出会う事もなくて。何か一つでもタイミングが合わなければ起こりえなかったこと。
この先もずっと、今ある縁が続いてほしい。その為には俺がしっかりしなくちゃ。相手を大切にする、そんな当たり前の事が高校時代に出来なかった。俺はそれをなつみさんのおかげで知れたんだ。