塩顔男子とバツイチ女子




腕時計を見ると、さっきから五分しか進んでいない。待ち合わせは十九時だからあと十分もある。家に居ても何だかそわそわして早めに出ちゃったけど…もしかしてこれ、浮かれてる?


「北斗くん!お待たせ」


肩を叩かれて振り返ると、なつみさんがいた。
キャラメル色のダッフルコートが可愛い。


「なつみさん早い」

「時間に遅れがちだから。何としてでも定時で上がろうと思って、仕事やっつけてきた。待たせちゃってごめんね」

「俺は早く着いちゃっただけだから。ちゃんとお昼ごはん食べた?」

「食べたよ」


去年のクリスマス前に激務で痩せてしまったなつみさんは、その後も頬の肉が戻らなくて。本当に忙しい時は自分の事を後回しにしちゃう人だから心配。


「なつみさん、ハッピーバレンタイン」

「わぁ。可愛い!」


なつみさんはバラのブーケを笑顔で受け取ってくれた。ピンクとオレンジと白のバラ。何色にしようか迷ったけど、なつみさんに似合うと思って決めた。


「あとこれ。チョコレート。人気のお店なんだって」

「チョコまで?」


あの日、蒼に連れて行ってもらった最近オープンしたチョコレート専門店。ものすごい数の女性が並んでてびっくりしたけど、並ぶだけの事はある美味しいチョコレート。


「お花も北斗くんが買ってくれたの?」

「うん。ここに来る前に花屋さんに。俺、逆チョコとか知らなくてついこの前知って。…愛情表現とか苦手だから。なつみさんに好きだって言ってなかったなって」

「クリスマスにちゃんと言ってくれたじゃない」

「あれは告白した時」


女性はちゃんと言葉で言われたいっていうのは知ってるけど。それはあくまでも知識でしかなくて。実践した事はない。