「三井さん、良かったね。腰治ってきて」

「本当にやっとよ。ゆっくりお風呂にも入れなかったから」


三井さんは去年の十一月にぎっくり腰になってしまって、高齢ということもあり治りが悪かった。少し入院をして、ここに戻ってからも車椅子生活をしていたから入浴も全介助が続いていた。こうして自分でゆっくり大浴場で入浴をするのは本当に久しぶりなんだ。
まだ完治したわけではないから体を洗うのを手伝い、万が一滑ったりしないように介助している。


「は~、気持ちいい」

「大きなお風呂はいいですよね」

「ほんと。それに、自分でお風呂に入れるっていいねぇ」


大浴場はまるで銭湯のような広さがあって、自分で入れる人は昼過ぎから好きな時間に、介助が必要な人は事前に希望を聞いて順次入浴。全介助の人はもう一つある設備が整った浴室で。


「なつみちゃんの彼、かっこいいね」

「えっ、どうしてそれを?」

「陽ちゃんから聞いた。気さくで素敵じゃない」


話はあっという間に広がっちゃうんだなぁ。別にやましい事は無いし構わないんだけど。北斗くんが戸惑っていないといいな。


「母には結構色々言われたんですけどね」

「気にする事はないわよ。なつみちゃんはまだ若いし、惚れられる魅力があるって大事なことなんだから」


ばあちゃんも山城さんもそうだけど、味方がいるって本当にありがたい。仕事が忙しいのもあるけど、あれから母とは話していなくて。大人げない意地を張るのもそろそろ終わりにしなくては。北斗くんも圭も私を庇ってくれたんだから。


「自分の気持ちを大切にね」

「ありがとうございます」


今度は自分できちんと言わなきゃいけない。北斗くんを悪く思われているままは嫌だし、いい加減な気持ちで付き合っているわけじゃないから。次の休みは実家に行って母と話そう。