塩顔男子とバツイチ女子




「ごめんなさいね、手伝ってもらっちゃって」

「いえ。何でも言ってください」


なつみさんが誰かがいなくなったという連絡を受けて慌ただしく行ってしまった後、俺は山城さんに頼まれて部屋の整理を手伝っていた。捨てる雑誌や、息子さんの奥さんに持って帰ってもらうという本や服をまとめたり。


「あ、この本。俺も好きなんですよね~」


著名なミステリー作家のベストセラー小説。出版されたのは俺が生まれるずっと前だけど、ドラマや映画化もされていて今でも人気が高い一冊。


「北斗くんはよく本を読むの?」

「はい。昔から本ばっかり読んでます。基本的には一人の時間が好きで、もちろん友達と遊ぶのも好きですけど。本て色んな世界を知れるじゃないですか。行った事のない場所に行ったような気になるし、実際には知らない景色を想像したり。今日一緒に来てる友達には不思議がられますけどね。分厚い教科書読んで、その上小説まで読むのかって」


高校時代、よく蒼に言われた。「教科書読むのもダルいのに小説まで読むなんて、頭の中が文字だらけになるだろ。頭がおかしくなる」って。昼休みに読んでたから、そう言われてもおかしくはなかったけど。今は昼休みでも教科書を開いている事が多いから、なかなかゆっくり本を読む時間がない。


「本を読むのはいい事よね。自分の知らない事を知れるし、それがきっかけで相手との距離が縮まる事もある。一人の時間をきちんと作るって大切だと思うわ。どうしてもそういう時間って減っていくし、自分がリラックス出来ないと上手くいく事もいかなくなるから」


確かにイライラしたり落ち込んでると失敗しやすいし、楽しすぎると浮かれてしまってそれも良くない。もちろん誰も彼もが一人の時間で気が休まるとは限らないけど。蒼はワイワイ遊んで騒いで気分転換になるタイプだし。