「ホクちゃんはいい子よ」

「恐ろしく無表情だったけど」


確かに北斗くんは表情も声色も変わらなかった。怒っているのは感じたけれど、感情的にならず終始冷静に喋っていた。


「私は北斗くんの事、好きだよ。最初は全然そんな気持ちなかったけど。圭より年下だし。正直、自分でも北斗くんに対する気持ちはずっと分からなかった。でも一緒にいると楽しいし、一緒にいる事が自然ていうか…」

「なつみ、好きに理由はいらないのよ。好きなんだから、その気持ちだけでいいじゃない。芳恵ちゃんがややこしい事にしようとしてるだけ」

「俺、ばあちゃんの言ってる事分かるわ」


好きに理由はいらない、か…。
そう言われると何で好きになったのかなんて全部後付けにしかならないし、北斗くんが言っていた。無意識に私に惹かれていたって。


「俺は別にいいと思うよ。誰と付き合おうが姉ちゃんの勝手だし、独身なんだから自由じゃん。そもそも未だに離婚話を蒸し返す母ちゃんがしつこいんじゃないの。近所のオバちゃん達だって姉ちゃんの事なんか誰も話してないじゃん。誰かに見られたとしても面倒なら知らぬ存じぬで通せよ」


圭にしては珍しくいい事を言う。私が離婚する事になった理由を知った時は『は?マジで?不倫の挙句に子どもまで出来てるなんて笑えるんだけど』と言い放ち、出戻ってきた日には『甥っ子とかと一緒にいるとそれで子育て感味わって満足しちゃう人もいるらしいよ。気をつけろよ』と言ってきたり。仕事して人生が終わるとも言われたっけ。昔はヤンチャしていたのに、圭も父親なんだもんなぁ…。


「あんたもたまにはちゃんとした事を言うのね」


ばあちゃんは目を真ん丸にして、あの圭が…たまげたわと付け足した。