「言っとくけどあんたが帰ってきても部屋ないからね。圭がいるんだから」


二つ下の弟の圭。二年前に結婚して、奥さんの香ちゃんともうすぐ一歳になる息子の祥太がいる。そもそも妊娠初期に悪阻が酷くて入院した事もあって、うちの実家で面倒見ていて。
香ちゃんの両親は今は県外に住んでいるし、産後も何かと大変だから、それならばと同居。

うちの実家は先祖代々、畑をやっていて家もそこそこ広く部屋数も多い。私一人くらい出戻ったって狭くなるわけでもなさそうだけど。私の部屋だって一応残ってるのに…。


「あんた、考えてもみなさいよ。もう大人なんだからね?この際、離婚は仕方ない。どうにもならない。別れるしかないんだから。けど自活しなくてどうするの。ここに住んで私や香ちゃんに世話してもらって、挙句に甥っ子と一緒に暮らすなんてぬるい生活してたら、気づいた時には歳食って死んでいくだけよ」

「娘にそこまでボロクソに言う?」

「言う。親だからね」


夫は彼女と暮らす家をすでに見繕っていて、決まるまでは彼女の家に住むと言う。今の家にそのまま住み続けるという選択肢もあるけど、私は絶対に嫌だった。私の知らぬ間に結婚生活が破綻していた家に住み続けるなんて不幸すぎる。


「それならなつみは、私の所に来な。私一人で部屋はいくらだって余ってるんだから」

「あ、お義母さんの所!そうよ。なつみ、それがいいじゃない」

「ばあちゃん…」


ばあちゃんの家は実家から徒歩五分くらいの所に家がある。木造二階建ての日当たりが良くて縁側がある昔ながらの家。私の父も元々はそこで生まれ育ったけれど、母と結婚して家を建てたらしい。祖母の、自分の家を持って家族をちゃんと守れ、という一言で。