「どうしたの、いきなり」
「電話するわけにもいかないから来たのよ。猫にエサやってくるって言って」
「メールでいいじゃない」
「明日の昼くらいだから、みんな帰るの。あんたの仕事は?」
「明日は夜勤。心配しなくとも昼間は出歩かないよ。昨日も今日もずっと家だもん。あ、買い物には行ったけど」
なつみさんのお母さんは俺の事を頭のてっぺんから爪先まで、まじまじと見ている。変な服装はしてこなかったつもりだけど…。至ってシンプルなネイビーのセーターとジーンズ。
「相楽くん、だったわね。おいくつ?」
「21です。大学三年です」
お母さんはヒッとびっくりした後、なつみさんを睨みつけた。普通はびっくりするか。
「なつみとはどういうご関係?」
「そういうのやめてよ」
「なつみさん。俺が言うから。大丈夫。少し前からなつみさんとお付き合いをさせていただいています。ご挨拶もせずにすみません」
なつみさんのお母さんは訝しげに俺を見ている。さっきまでこたつに潜っていたはずのナッツがいつの間にか俺の足元にすり寄ってきていて、俺を見上げていた。
「…なつみ、この話はまた改めて。この子が今来てる事、お義母さんは知ってるの?」
「知ってる。ばあちゃんの家だもん。ちゃんと言ってあるよ」
「お義母さんも何でこんな事を許すんだか…」
なつみさんのお母さんは呆れたようにため息をついて、俺の足元にいるナッツを一瞬見た。
「相楽くん、まだ若いんだからよく考えて。なつみみたいなバツがついたのを選ばなくたって相応しい人がいるんじゃない?」
「相応しいって何ですか」
ここに蒼がいたら、余計な事は言わないで黙ってろと俺の口を押さえるだろう。でも言わずにはいられなくて口から出てしまった。相応しいって、何をもってそう言うのか分からない。

