「北斗くん、デザートはケーキなんだけど。何飲む?」
「何のケーキ?」
自分の食器や箸を持ってキッチンに行くと、なつみさんは冷蔵庫からケーキを出してくれた。フルーツがいっぱいのタルトケーキ。苺にキウイ、マンゴーにメロン、オレンジ、リンゴ、ブルーベリー。キラキラしていて美味しそう。
「美味そう。なつみさん、何でも作れるんだ」
「タルトは簡単だよ。スポンジケーキは苦手だけどね。上手く膨らまないから」
なつみさんは苦笑いしながら電気ケトルのスイッチを押した。
「コーヒーがいいです」
「豆から挽く?インスタントもあるよ」
「挽いてみたい」
豆から挽くなんて一度もやった事がない。水出しとかフィルターなら親父がやっているのを見た事があるけど。なつみさんは棚の中から豆の入った袋とミルを出してくれた。年季の入った手挽きタイプの小さなミル。
「ばあちゃんは挽いた方が美味しいって言うんだけど、私はいつもインスタントで済ませちゃうんだ。そんなに飲まないし面倒で」
豆をセットしていざ挽いてみると、結構力が必要だった。
「みすみさん、お店でいっつもこうやってるんだ…」
「好きじゃなきゃ出来ないよね」
なつみさんは洗い物、俺はそろそろ豆を挽き終わるかという時、玄関の戸が開くカラカラという音が聞こえた。
「なつみー?誰か来てるの?」
「げっ」
なつみさんが心底嫌そうな顔をした。扉が開いてなつみさんのお母さんが入ってくる。お母さん、なつみさん、俺は見事な三角形での対面。
「…どなた?」
「相楽北斗です。初めまして」
「なつみの母です」
なつみさんのお母さんは小柄で、髪の毛は肩にかかるくらいのパーマヘア。ちょっと明るい赤毛。レモンイエローのエプロンをつけている。

