塩顔男子とバツイチ女子



「うちの父がそうなんです。いつも母の小さな変化に気づいて褒めてて。しかも母が礼儀とかもすごいうるさい人だから、俺と5歳上の兄貴は小さい頃から母に徹底的にレディファーストを教え込まれました」


うちの父は記念日に花を買ってきたり、母がヘアスタイルを変えるとすぐに褒めたり、俺には何ら変わらないように見える化粧も実は少し違っていて、些細な変化にもきちんと気づく父は結婚して何十年経った今でもちゃんと母を見ているんだなぁと、同じ男としてすごいと思う。

それに小さい頃から母にはいつも言われていた。『無口でもいい、でも大切な事はちゃんと言わないと誰にも伝わらない。照れて言えないのはもったいない。言いたい事はちゃんと言う。言わない後悔より言って後悔した方が、溜め込むよりずっといいんだから』と。


「言わない後悔より言って後悔、かぁ…。確かにそうだよね。ついつい溜め込んじゃうけど」

「…なつみさん、俺に言って。何でもいいから。ちゃんと頼ってもらえるように、頼れる男になりたいと思ってる」


俺はまだ学生だし、社会の荒波を知らない。だから何の役にも立たないかも知れないけど、なつみさんが心底辛い時には守りたいと思うから。


「ありがとう。私ね、人に頼ったり甘えるのって少し苦手なんだ。弟がいるからかも知れないけど、小さい頃からお姉ちゃんなんだからって言われ続けて。だからどう頼ったらいいのか分からないっていうのもある。でも北斗くんが頼りないなんて思った事ないよ。北斗くんは甘えるタイプ?」

「…どうかなぁ。俺、こんな性格だから。昔から冷めてるし。俺がなつみさんに甘えたらどうする?」

「いいと思う。それも全部、北斗くんだから」


なつみさんはずるい。心臓を鷲掴みされたような、キュッとなるような。どれも全部が俺で、なつみさんもそう。これからなつみさんの前でどんな自分が出てくるか楽しみだ。