「おはよう」

何事もなかったかのようにリビングへ。

「咲雪、昨日また抜け出したろ?」

お父さんにバレてた…気まずい。

「真面目になりなさい」とか「真っ当な学生生活を送りなさい」とかうるさい…。

2歳上に兄がいる。

いい大学に進学した。

だから…私は出来損ないらしい。

心配しているのではなく「世間体」が大事。

「男と遊んでいる暇があるなら勉強しなさい。将来を考えなさい」

言っている事はわかるよ…

だから、お父さんに言われた通り高校だって勉強して入った。


「養われている身」

はいはい…。

どんなに頑張っても褒めてもらえない。

それが私の家。


早く抜け出して自由になりたい…。

いつも同じ事ばかり言われる…うんざり。


お母さんは「お父さんの言う事聞いて」

それだけ…。


将来を考えなさい…決められているのに考える必要ある?


私には選ぶ権利はないの?


兄もそう…お父さんに言われた通り。

意思を持てないの?


真面目がウリのお父さん…

それを否定しないお母さん…

この二人の環境で夢を持つ事はあってはいけない事。


狭い箱の中にいた私を連れだしてくれたのが皇雅だった。

窮屈で息苦しい世界から…。


友達の茉叶(まかな)も私と同じ高校に通う。

茉叶の家は自由。

うちとは真逆。

子供の意見を聞いてくれる…だから仲がいい。


冗談すら通じないお父さんと居てもつまらないし、結局は説教が始まる。


「お前もお兄ちゃんを見習いなさい」

何度目?


早く大人になりたい…

自由になりたい…

日に日に強くなる思い。


こんな家…出ていきたいよ…今からでも…。


友達が来たらお父さんは別人のようになる。

茉叶が来た時もそう…。

外から見たらいいお父さん…

私から見たらうるさいお父さん…

見方してくれないお母さん…


「何不自由のない暮らし」

そう思っている。


そうかもしれない…お金はね。

それだけでは成り立たない事もあるよ?


飼い慣らされた私はいつまであなた達の言いなりになればいい…?

だけどね…譲らないよ…

譲れない事…それは皇雅。

何があっても離れない。

親に見離されても…。


「お母さん、今日塾だから遅くなる」

「次のテストは成績に関わるからしっかりね」

「わかった…」

お父さん的に学年順位が5位以内に入っていないとダメ。

私は前回11位。

「話しにならない」と言われた。


500人近くの11位なのに…。


学校も自由な場所。

友達と騒ぐ。

家では騒げないから…。

抜け出せない日は息が詰まる。


この前担任に言われた。

「先生、早く大人になりたい」

「大人も大変だぞ…自分の行動に責任持たないといけないし、仕事しないと生活できないし、学生時代は華だぞ」

「それでも、自由になりたいの‼」

「今はわからなくても、いつかわかる日が来るから」

「ふぅーん」


今を楽しんでやる。

茉叶は塾には行っていない。

「今日は何するの?」

「茉叶は今日はデートです!」

「いいなぁ…私、塾だよ。親マジうざい」

「勉強も大事だけど、遊びも大事じゃんね?」

「でしょ?しかも昨日抜け出したのバレて朝から説教…」

「マジ‼ほんと咲雪んちって自由ないよね?」

「でしょ?息詰まるよ…」

「だろうね…反抗すれば?」

それも悪くない。

自分の意思表示。

「いいかも…」


やれと言われた事をやりさえすればいいや…。

道なんて踏み外すためにあるようなものだし。

間違った事をして間違いだったと気づく事だってあるし。


「咲雪、塾頑張れ」

「はぁーい」

コンビニで暇潰し。

雑誌を手にとってあれこれ見る。

モデルさんかわいい…こんな風になりたい。

いつも迷う「オーディション」受けてみたい。


私は背が高い…168センチ。

お母さんは世間では「美人」。

確かにキレイだしスタイルもいい。

そこは自慢。

私はお母さんに似た。

だから世間からはキレイな娘さん。

自分に自信がある訳ではないけど褒められると嬉しい。


勉強で褒められた事ないし…。

唯一、褒められるところだから。


-ピコン-

「塾、着いた?」

お母さん…

「着いたよ」

ヤバッ‼遅刻する。

嘘ついて滑り込んだ塾。

さっきも勉強したのに、また勉強。


お父さんにグダグダ言われたくないから真剣。

私だって必死です‼


塾が終わり外に出ると「咲雪」

「お母さん…どうしたの?」

「買い物の帰り」

「あっそ…」

「その態度はないでしょ?」

一人がよかった。

だけど、「咲雪は何になりたいの?」

「何になればいい?」

「自分で決めないの?」

この言葉に何かが弾けた…

「お父さんとお母さんの言う事聞いてるじゃん‼」

「何…急に?」

驚いた顔をするお母さんに…

「私に将来を決める事できるの?何やっても褒めてくれないし、いつも説教…お兄ちゃんを見習え?うんざりだし」

黙るお母さんに…

「私は自由になりたいの…茉叶んちみたく家族団欒がしたいの‼うちには無理でしょ?」


この日からお母さんとは口を聞いてない。

私はお父さんとお母さんの言葉に返事をしなくなった。


-ピコン-

「今日、会える?」

皇雅だ…

「会える‼」

「8時に行くわ‼」

「待ってる‼」

一気にテンション上がる。

「咲雪‼ご飯だよ‼」

「いらない‼ちょっと出かけてくるから」

「どこ行くの?」

「どこでもいいじゃん‼」

家を飛び出した。

何を言われてもいい。


部屋着のまま外に出た。

皇雅の車が見えた。

手を振る。

「早いね?」

「親とケンカした…」

「何で?」

「知ってるじゃん…うちの事情。我慢できなくなった…」

「反抗期ってヤツ?」

「反抗したくもなるよ」

「でもさ、親は親なりに咲雪の事考えてるって事だよ?」

「皇雅も味方してくれないの?」

「そうじゃなくてさ…俺はお前の親の悪口言わないよ」

「何で?」

「咲雪の親だから…俺が連れ出してるのもいい事じゃないし…悪く言われても仕方ないし」

「私はこの時間なくさないよ?なくなったら無理…」

「俺も…」

「お腹すいた…」

「俺も…」

そう言って二人で笑う。

今日は帰らない…帰りたくない…。

幸せが溢れだす。

学生同志では出来ない付き合い方。

今の時代「健全な付き合い」なんてしてる人いない。

みんな刺激がほしい。

「子供」は子供なりに考えている。

いい事と悪い事は知ってるし、もう少し信じてほしい。

「今日、泊まっていい?」

「ダメ」

やっぱり…こういう所はマジメ。

もっと強引に奪ってよ…。

皇雅だけの私にしてよ…。

「大人になってから?」

「そうだね…」

「皇雅の言う事は聞く…」

「えらい‼」

私の気持ちを理解してくれているから褒めてくれる…。

抱きしめて「えらい‼」そう言ってくれる。


満たされていくのがわかる…。

温かくなるのがわかる…。

優しさが沁みてくる。


だから頑張れるから…手を離さないで…。