俺の言葉に、普段は温厚な速水社長が、渋い顔をした。

…いい返事が来るとは思ってなかった。だが、まさか、あんな提案をして来るとは思わなかった。

『…星と結婚したいなら、条件がある。星に、母親の事を全て打ち明けること。その上で、星が、それでも結婚したいと言うなら、私は何も言わない』

…打ち明けることが、正直怖かった。星に、拒絶されることが。

だから、ありもしない速水物産の危機を救うべく、東條コーポレーションがお金で解決し、助ける条件に星を、自分の嫁にするというストーリーを作り上げた。

…昔の事は、星は覚えていなかった。俺と星は初対面だと思っていたようだった。

それでも、何とか、星を、自分のモノにするために、あらゆる手段をこうじた。

…でもまさか、父の愛人の子供、光が星の傍にいるとは知らなかった。

しかも、あの事を全て知っていたとは。

まだまだ共に過ごした時間が短い。

星は、俺の事など、なんとも思っていないだろうに、過去の事を全て話さなければならなくなった。

…全てと言っても、ごく一部始終しか話せず、星を、苦しめることになってしまった。

「…東條君、星からもう手を引きなさい。これ以上星が苦しんでいるのは見ていられない」


速水社長の言葉に、頷くしかなかった。

もう二度と、星を、この腕に抱けないなんて。



幾日も過ぎ、星に会えないもどかしさに、心が壊れそうだった。

…そんなある日、訪れた、星の母親の月命日。

亡くなってから、1度も欠かすことなく、お墓参りに行っていた。

今日も、仕事の合間をぬって、墓地を訪れていた。

…まさか、星が来ているとは、つゆほども思っていなかった。