「…知らないのは私だけです。…なんにも知らない。星空の事も、母の事も、知りたいのに誰も教えてくれない。沢山、沢山、苦しんだ。何も知らないことが、どれだけ苦しいか、わかりますか?」

…星空の背中に訴える。星空は黙って聞いているだけ。

…でも、いつの間にか、私の手を優しく握りしめていた。

「…私は、星空が嫌いでした。何を考えてるのか分からなくて、怖くて…でも今は…」


…星空の事を、こんなにも好きだ。…母の事を知っても、好きだから、なおのこと傷ついた。

「…星の母親と、俺は、全くの他人だった」

星空は背を向けたままだったが、静かに昔の事を話始めた。

「…高校生になったばかりの頃、下校中にベビーカーを押した女性が大荷物を抱えて歩いてた。それが星と星の母親だ。見るに耐えない状況で、手を差し伸べようとしたが、一歩遅かった。

荷物を落とし、道路に、ばら蒔いて…俺はそれを一緒に拾っていた。…大型トラックが来ていることにも気づかず。

寸前で気づいたとき、お前の母親が俺を助けようと思いっきり押したんだよ。…俺はこけたときのかすり傷だけですんだが、お前の母親は、まともに撥ね飛ばされて即死だった。

救急車の中、俺は赤ん坊だったお前を抱き締めてた。赤ん坊の星に、何度も、何度も、謝ってたよ」
…母を私から奪った。…確かにそれは間違いじゃない。

けれど、星空には、なんと落ち度もない。母はただ、星空を助けようとしただけだ。

それは、あくまで事故で、星空が、罪悪感を抱く必要はどこにもないのに。

…私は、星空の背中に抱きついた。そしてぎゅっと、星空を抱き締めた。