…やっと、熱が下がって、まともに起きられるようになった。

でも、心を閉ざしたように、なにも考えられず、ベッドに横になったまま、窓の外を、ボンヤリ眺めていた。

…ガチャ。

静かにドアが開く。

それに気づいた私は、そちらに目線を向ける。

「…具合はどう?」

そう言いながら、椅子に腰かけたのは。

「…光先輩」

心配そうな顔で、私を見つめた光は、私の手をとった。

「…東條社長から、話を聞いたんだね?」

また思い出して、涙が出た。何度も流れては落ちる涙を、光は何度も優しく拭った。

「…全部聞いたんだよね?」

…全部?…私は何が全部なのかわからない。あれが全てではないのか?

「…光先輩。全部って…東條社長が…私の母を…奪った以外他になにか、あるんですか?」

「…いや、それがぜんぶだよ。…あのさ、速水社長から聞いたんだけど、星ちゃんと、東條社長は、婚姻届は出されてないって聞いたんだ」

「…ぇ?」

「…結婚なんて名ばかりだった。…もう、東條社長に縛られるものはないんだよ」

「…星空は…会社を助けてくれた」

「…それも嘘だよ」

「…」

…一体、何が本当で、何が嘘なのだろうか。私にはさっぱりわからない。

「…もう、何も考えなくていいよ。俺が、星ちゃんの傍にいる。俺が、君を守るよ」

そう言うと、ぎゅっと、私の手を握りしめた。