「…出張に行く前と、同じになった」
「…ぇ?」

…そんなに優しい目で見ないで…

勘違いしてしまいそうになる…

「…星、頼むから、俺の名を呼んでくれ」
「…」

「…社長になってから、もう、俺の名を呼んでくれる人はいなくなった」

「…そんな大役、私には出来ません」

「…星、お前とは、仕事の付き合いはない。気楽に考えてくれたらいい」

「…仕事の付き合いより、難しい間柄なんですけど」

ボヤくように呟けば。星空が初めて声をたてて笑った。

「…そ、そんなに笑わないでくださいよー」
「…そうやって、俺に悪態つくのは、星位だぞ」

その言葉に、そっぽを向く私を、起き上がった星空は、両手で私の頬を包み、こちらに向かせた。

「…星」
「…東條社長」

「…星」

…んー、もー!!!

「…わかりましたよ。言いますよ、何度でも‼星空。星空、星空、星空、星空…」

「…もう一回」
「…星空」

そう言って、困ったように笑えば、星空は、はにかんだ。

そして、私を抱き締めた。

「…く、苦しいですよ」
「…星は、俺のものだ」

「…もう離してください。苦しくて死んじゃいます」

私の言葉に、星空、また笑った。

「…星の作った飯が食べたい」
「…突然ですね」

「…もうすぐ昼だが」
「…ぁ、本当に…何が食べたいですか?」

「…星が作ったものなら、なんでもいい」
「…それが一番困りますけど」

そう言いながら、ゆっくりと星空の、腕をほどく。

「…腹減った、腹減った、腹減った」
「…もぅ、駄々っ子ですか?わかりましたよ。直ぐに作ります。あー、何があったかなあー。昼から買い物いかなきゃ」

そんな事をブツブツ言いながら、キッチンに向かう。

…こうしていると、本当の夫婦のようで、なんだかくすくったい。