「…お父さん!私は、こんな人と結婚なんてしないわ!」

社長室に、私の声が響く。父は私を宥めようとしたが。

「…星さん、貴女がなんと言おうと、結婚は白紙に出来ない」

そう言ったのは、東條社長。

「…な、なんで貴方がそんな勝手なことが言えるのよ?!」

私の言葉にフッと笑った東條社長だったが、その笑みはほんの一瞬で、直ぐに冷たい眼差しで私を見下ろした。

「…俺は、アンタと速水物産を金で買った」
「…何、それ」

「…星、すまない」

私の後ろから、父の謝罪の言葉が聞こえてきた。振り向けないまま、ただ、東條社長を見上げる。

「…今週末にはうちに来い」

そう言った東條社長は、私の手に鍵を握らせると、社長室を出ていく。

バタンと閉まったドアの音でハッとした私は、東條社長を追いかけた。

…エレベーターの前、東條社長の腕をつかんだ。

「…ちょっと待ちなさいよ。愛ある結婚じゃないなら、出来るわけない!」

私の言葉に顔だけ振り返った東條社長は、さっきよりもっと冷たい眼差しで、まるで私を見下したような目で見た。


「…愛のある?…俺は、金でアンタを買った。お前のような小娘に、愛などない」


そう言い捨てると、エレベーターに乗って行ってしまった。


私は気が抜けたように、その場に座り込む。今日は、私の二十歳のバースデーなのに。こんな仕打ちってない。


父からのプレゼントが、あんな冷たい男との愛のない結婚なんて。


私は、その場で泣き崩れた。