そう言って、女店主は顔を上げるのを止め、店の中に戻って行った。






小一時間くらいして店の片付けも一段落した頃、香音はカウンターに一人座り、煙管を更かしていた。



最近呑んでいない酒を手に取りそのラベルをジッと見る。



「『香露』か…そういや久しく呑んでなかったな。」



たまには呑むか、そろそろ店終いだしと思った香音は側にあった小さなグラスに少しつぎ、ちみちみ控え目な口元へと持って行った。




だが、あまりに口にしていなかったからなのかいつも美味しく呑んでいたその『香露』が少し不味く感じた気がした。




「…?…いや、味自体は美味しい筈なんだけどな。」





と言いつつも大体察しが付くのでそれ以上は深く考えない様にした。






ガラガラ…