彼は急に「子供作ろうか…」

彼の子供だったらほしい…

一人でだって育てていける…

覚悟はあった。


「いいよ」

背景には彼の家族の存在が頭を過る。

普通はケジメをつけてから…そう思う。

軽い気持ちでいいと言った訳ではない。

世間から見たら私は「不倫」をしているから…。

後ろめたい気持ちがある。


私だって街を手を繋いで歩きたいし、のろけ話しだってしたい。

誰にも言えない恋は切なく、辛い。

普通に結婚していない人を選べばいい…わかっている。

最低な事をしている…それも承知の上。


自分から別れを告げられないから…彼の言葉を信じようと必死だから…。

彼との未来を期待してしまう。


だって、いつも言ってくれるから…

「妻に愛情はない。子供にはあるけど…」

そうだよね…子供に罪はないし、自分の血を分けた子が可愛くない訳がない。

時々、曇る言葉も…私を傷つける。


いつまで…待てばいい?


教えて?


私はきっと…気持ちがもたない。


その気持ちとは逆に何の疑いもなく普通の恋人のように私の家で過ごす彼。

何を考えているのかわからない。

避妊もしない。

「私が本当に妊娠したらどうするの?」

「生んでくれる?」

「生んでいいの?」

「もちろん」

信じていいの?

だけど、一緒に育てたいとか思っていない。

私一人で育てる…そう決意した矢先…生理が止まった。


原因は子宮内にポリープがあるのが原因だった。

ポリープは大きいため手術しなければ、癌化してしまう可能性があると医師に告げられた…。


まさか…こんな事になるとは…。


私は会社に事情を説明し、ポリープを切除する手術をした

これで普通に生理が来て、普通に妊娠できる…そう思っていた。


医師からも術後は良好との事で安堵していた。

だけど、普通に生理は来ない。

癌検診では必ず再検査という結果。


「普通に妊娠するのは難しいかもしれませんね…」

医師に告げられた言葉に私は絶句した。

まだ20代だよ…今からその診断を受けるの?


頭の中が真っ白というより、他人の話を聞いているような…自分の事ではないような…そんな気分だった。


気持ちが不安定な私はなおさら彼から離れられなくなった…一人がこわい。


彼は「歩花を支えたい…」

そうやって優しく包んでくれる。

間違った愛情だって温かい。

私の不安を癒してくれる。

「あなたしか私にはいない…」

そう言わずにはいられない。


女性としていつか出産をして、我が子をこの手で抱きたい…それができなければ、生きている意味すらない…

そう思うようになっていた。


会社の人間関係は濃い。

常にミスの押し付け合い…。

「これ、私の担当じゃないから…」

そう言う暇があるなら…隣の人と雑談する暇があるなら…やってくれてもいいのにね…。

常に会話に同意を示さなければならないし、狭い休憩室も窮屈で苦痛に感じるようになった。

上司すらリーダーのご機嫌取りをする…。

呆れて物を言う気にすらならない。

条件はいい会社。

人間が最低な会社。

日に日に増す「仕事を辞めたい」という気持ち。


彼とそろそろケジメをつけなければならない時期にきたような…新しく、自分をやり直したい…

気持ちだけが私を急がせる。


本心はきっと…離れたくない。


家庭を壊す勇気もない…。


それに、きっと彼は最終的に家族を選ぶ…


わかっているよ…私はきっと一人になる。


だから…好きだけど…別れを告げると決めた。


付き合って2年…。


長いようで短い時間。


本当に愛していた。

周りには最低と言われても仕方ない。

だけど、私なりに本気で恋をした…純粋に彼を愛していた…形は違っても…。


彼が家にきた。

「お疲れ‼」

「お疲れさま‼」

「お腹すいた…今日のご飯何?」

「ねぇ…私たち…別れよう?」

「急に何?」

声のトーンが下がる…。

「答えだせないでしょ?このままなんて嫌だよ…」

「俺だって悩んでるし、考えてる…」

「わかっているよ…私も悩んだよ?待つのは辛いの…」

「歩花まで俺を責めるの?もう、いいわ…」

彼はすぐに自分を悲観的に感じるところがあった。

私は彼を責めた訳ではない。

普通の事を言っただけ…間違いなの?


そう言って私の部屋を後にした。

終わった…私の恋。

これで良かったといい聞かせた。


だけど…部屋を後にした彼は、

「歩花のために離婚しようと思っていたから…裏切られた気持ちになった」

それを言うために連絡をしてきた。


「だけど…2年待ったよ?」

「簡単には離婚できない…」

わかっているよ。

だから私は別れを選んだ。

普通に幸せになりたいし…私は強くはないから。


「そうだよね…」

私の悪いところ…。

手を離しかけたところで掴んでしまった。


また、同じ事の繰り返し。

同じ内容のケンカ…。

同じ不安…。

一体…私の存在は何?


中途半端に期待させる彼に私は苛立ちすら感じていた。


一つ上手くいかない事があると、全てが上手くいっていない気持ちになる。


彼への悩みと職場の悩みで私はもう気持ちに限界を感じていた。


虚しく見える二人の写真も…スマホケースも…。


いくらでもでてくる涙はいつ止まるのだろう。

頭の中がめちゃくちゃになる…。


助けてよ…誰か…

悩みのない世界にいきたい…全てから開放されたい…

必死に逃げ道を探す。

見つからない逃げ道にいつまでも悩まされる。


ハマらないパズルのピースみたいに…。


何をしても満たされない。


彼は余裕で未来を語る。

果たしてその未来すら存在するのか…

疑問ばかりだ。


答えは…NOなのはわかっているのに…。