その彼氏は同じ会社の人。

年上で一緒にいて、落ち着く人…。

おしゃれで、笑った顔がかわいい彼にすぐに恋をした。

まめに連絡もくれて、毎日会いに来てくれる。

私は幸せだった。

本当に愛していた。

この人が最後の人がいい…そう思うほど…。

だけどね…「歩花(あゆか)…俺、言ってない事ある…」

嫌な予感。

色々な予想が頭を駆け巡る…。

もしかして他に彼女いるとか?

やっぱり付き合えないとか?

なんだろう…。

そう思いながら「何?」

「俺、結婚してるんだ…」

「嘘でしょ?」

「ごめん…妻とは別れるから…」


頭が真っ白になった…。

何と言えばいいのか…わからない。

「今、二人目生まれたばかりだから時間をくれないか?」


この時、突き放す勇気があったらよかった…だけど私は彼の事が好きで…好きで仕方なかった。

だから「わかった…」

今はまだ別れたくない。

衝撃の事実が二つ。

付き合う前に知りたかった…。

こんなに好きになってしまってから言うなんて…ズルイ。


彼は、「妻との関係は冷めきっているから、信じて待っていて…」

好きだから…信じてしまったよ。


家庭があるにも関わらず、仕事の帰りは毎日会いに来てくれた。

会わない日はない程。

お揃いのTシャツも…一緒に行った場所も、私にとっては眩しかった。

悪い事だと思っていたけど、気持ちを止められなかった。


彼は育ちに事情があって、家族とは疎遠だった。

私も家庭に事情があって、高校生の頃は弟と二人で暮らしていた…。

両親は離婚し、母は新たな彼氏ができて私と弟を置いて家を出た…。


だから…同じような境遇に話が合った。

だから…惹かれ合ったのかも知れない…。


弟が社会人になったのをきっかけに都会にでた私。

その新たな場所で同じような境遇の彼。

離れる事が出来なかった。


傷の舐め合いだっていい。

彼がいてくれるだけで…それだけでよかった…。


よかったはずなのに…時間が経つと欲張りになっていく。

「本当に私を選んでくれるの?」

そんな不安ばかりを口にするようになった。

待つのは辛い…。

私は構えていられる程強くはない。


彼は「歩花を選ぶよ…だから毎日会いに来てる…」

「うん…」

重たい空気…。

一度暴れだした不安は加速する。

何度でも確認したくなる…家庭があるのわかっているのに…いけない事だとわかっているのに…

愛されている実感がほしい。

でも、我慢して信じる。

彼との道を選んだのは私だから…。

彼が帰った後、一人になった部屋には余韻が残る。

それを感じるのが…寂しくて…苦しい…。

ずっと側にいてほしい…ねぇ…彼女の所に帰らないで…

そんな事ばかり願ってしまう自分…。

最低だね。


彼の言葉に期待してしまう…「歩花が好きだよ」。

甘い言葉に私は溺れていく。

彼の言葉も…私にしてくれる行動も私の心を掴んで離してはくれない…。

「今、妻と話し合っているから…」

そう言われ続けてどのくらい時間が過ぎたのだろう…。


思い出もお揃いの物もどんどん増えいく…同時に好きという気持ちも大きくなっていく…。


ねぇ…信じていいよね?

急にさよなら…と言わないよね?


好きになればなるほど不安になるこの気持ち。


私は自分のペースを完全に見失った…。