黒いバイクに跨った高村くんがキーを回されると、低音のエンジン音があたりに響き渡りました。

私は大急ぎでヘルメットの顎紐を止めると、カバンを背負ってから高村くんの後ろに乗り込みました。

バイクに乗るのは初めてですが、自転車に乗るような要領で乗り込むと、なんとかなったように思います。

ただ、足は置く場所があるのですが、手をどうしましょう…。

掴む場所が見当たりません。

私がグズグズしていたからでしょうか、

「お前、さっさと掴まれよ。でないと振り落とすぞ」

ちょっぴりお怒りモードで振り返った高村くんに睨まれました。

「は、はい!た、ただ、どこに掴まればいいのかと思いまして…」

困っていることを素直に質問すれば、

「はぁ?そんなもん俺に掴まってりゃいーだろ」

と、お怒りモード続行のままで言われてしまいました。

「お、俺?た、高村くんに掴まるということですか?どうやって?」

訳がわからずに言うと、

「ほんっと、お前は…」

と、今度は完全に呆れ顔で言われてしまいました。

そして、そのまま腕を引っ張られて高村くんのお腹の辺りへと持っていかれ、

「両手でしっかり掴まっとけよ!」

とだけ言うと、今度こそブォン、と一際大きくエンジン音を鳴らしてバイクが動き始めたのです。