「ふぁあ……もう朝かぁ」
目を覚ますといつもの天井。自分の部屋。朝日がカーテンの隙間から差し込んできていて眩しい。
「ちょっと!雪菜ー!?あんた今何時だと思ってるのー!?」
お母さんの怒った声が一階にあるリビングから私の部屋のある二階の部屋にまで大音量で響いてくる。
「いまいくー!」
今日は4月の二週目の月曜日。
新しい門出の日。
これから入学式なのだ。これから3年間通う高校の。私はパジャマを急いで脱いで、まだ自分の匂いも付いていない新しいピシッとした制服に袖を通す。鏡に自分の姿を映すとそこにはまだ見慣れない自分が誇らしげな表情で立っている。
本当に高校生みたいだ。
(いや、今日から本当に高校生なんだけどさ)
まだ上手く実感が湧かない。
「雪菜!入学初日から遅刻する気!?」
お母さんがドアを蹴破る勢いで部屋に入ってきた。言われて置き時計を見ると時刻は8時ちょうど。
「ファッ!?」
「8時半には学校ついていなきゃいけないんでしょう!?」
「あわわわわやばい!」
私は椅子の上に置いておいた鞄をひったくるようにして背負うと急いでドアを抜け、お母さんの横をすり抜けて階段を忙しく、騒がしく駆け下りて玄関までたどり着いて真新しいローファーを履きながら玄関のドアを押した。
「行ってきますっ」
「どっかでご飯買って食べなさいよー!?」
「はーい!」
お母さんの言ってらっしゃいの言葉を背に受けて私は家を飛び出した。





──ぎりぎりせーふ!
私はあと1分、という所で桜舞い散る校門を駆け抜けた。全力疾走の甲斐があった、とない胸を撫で下ろしつつ、在校生の先輩方の視線は甘んじて受けた。
遅刻ギリギリで来た入学生に向けてくる視線は呆れたというか、なんというか……。
「うう……明日からは寝坊しないように頑張ろう……」
私がそう心に決めて、クラス割りが貼ってあるらしく、人だかりができている校舎の方へ歩きだそうとした時。
後ろからバタバタと走る音が迫ってきた。
「待って待って───!!校門閉めないで────!!」
明るい活発そうで溌剌な女の子の声だった。その声はとても焦っている。きっと先輩が校門を閉めかけてたところに入ろうとしてきて焦っているのだろう。
──私より遅い人がいたとは……驚きだ……。
振り向いてみれば、ひとつに結われた茶色っぽい長い彼女の髪の毛が走ったせいか、風に靡いてか、忙しく揺れていた。
ふぅふぅと荒い息をしている彼女はしばらく見つめているとバッ、と顔を上げてこちらを見つめ返してきた。
「……なに?」
──しまった……見つめ過ぎたか……。
私は急いで言い訳の文章を脳裏に作り出す。
「えっと……私も遅刻ギリギリだったから……仲間?みたいな?」
──あああ!思わず疑問形に…!!
私は彼女の反応をそっとうかがう。
「……みたいなって……」
──あ、この子の目、めちゃくちゃ綺麗……。
彼女の瞳は私と同じように純日本人って感じの黒なのに透き通っているように見えた。
「ふっ……へんなの!あー……面白い!ふふ、ふふふっ、私たち、遅刻仲間だねっ?」
──え?
──笑顔?
──てゆーか……可愛い……!!
──なんだこの子!そうだ!美少女だ!
私は天使のような可愛さの微笑みに呆気を取られた。が、我に返る。
「って、ギリギリ遅刻してないよ!?」
「ふふふ、遅刻仲間ちゃん♪」
「それあだ名にしようとしてる!?」
──意地悪そうに笑った顔もかわいい……。でもその不名誉なあだ名だけはヤダ!!
「私の名前は雪菜!白山 雪菜っていうの!」
自己紹介をすると彼女は輝かんばかりの笑顔を作って彼女も自己紹介を返してくれた。
「私は────」






「あ、見て見てリノ!私たち同じクラスだよ!!!」
「言わなくても見えてるよ雪菜」
自己紹介をお互いに済ませた私たちはまだ人だかりの出来ているクラス割りを見に来ていた。
私の隣の美少女、リノ──青崎 莉乃(あおさき りの)と私は、クラス割りを確認し終わると教室に向かうことにした。






「おやおや、随分可愛い子羊ちゃんたちが集まってきてるみたいだね」
生徒会長の彼女は生徒会室の窓からクラス割りに群がる一年生を見下ろしてニヤリと笑ってそう言った。
「もうすぐ入学式よ。準備して二人共」
生徒会室にいる3人のうちの一人が自分の机から立ち上がるとキリッとした表情で指示を出す。
「おいおい、生徒会長はわたしだぞ?副会長様?」
「あら、それはごめんなさい、仕事をしない生徒会長様。」
手厳しいなぁ、と生徒会長は笑う。副生徒会長は「はぁ、まったく…」とわざとらしくため息をついた。残りの1人、生徒会会計は自分に与えられた席に丸まってゲーム機で遊んでいる。
「はぁ、さて、じゃあ行くかい?───ミラ、カノン?」
生徒会副会長、灰羽 美来(はいば みら)は「ようやくか、」と席を立ち、生徒会会計、赤羽 花音(あかばね かのん)もそれに倣った。
「……サキ、今日は演説でアドリブいれないで。さすがに入学式はヤバイ」
「あっはっは!サプライズはあった方が楽しいじゃないか!なぁ!美来!」
「いいえ、絶対やめてください!花音さんが言ったようにそれだけはヤバイですから!本当にやめてくださいよサキ!」
「ええ……つまらないじゃないか……」
「つまるつまらないの問題じゃないんです!」
「ええー……」と本当につまらなそうな顔をする生徒会長、桃島 沙紀(ももしま さき)。
「じゃあちょっとだけぇ……」
「ちょっともダメです!もう!行きますよ!」
そうしてこの学校の生徒会役員たちは入学式会場に向かう。


─────そこで、運命の5人が初のエンカウントを果たすとは、つゆ知らずに─────