(溺れる!溺れる!)
突然、そこは水の中。
必死に、死にたくない、死にたくない、ともがく。だけど、そこはプールと違ってすごく深くて────って息できてるし?
「あれ……?ふつーに息できてる?ん?んんん?ゆ、ゆめ?」
夢ならさっき覚めたはずなんだけど。
あの、ヘンテコなおしゃべりウサギが出てくる不思議な夢。
「夢の続きかな……?」
じゃないと水の中で息ができているなんて信じられない。あと、足がヒレになってることとかも夢じゃなきゃオカシイ……でも感覚はリアルだし、頭もクリアだし。
「もう、何言っているの?」
「?」
誰だこの美しい人魚。
────……人魚!?
やばいやばい。頭の理解が追いつかない。目の前の人魚はぐにぐにと私の頬を遠慮なくつねってきた。
痛い。
───夢じゃない!?
「夢の続き?あなた寝惚けてるの?これからあなたのデビューコンサートなのよ?しっかりして頂戴」
「で、でびゅー?」
「何言ってるの?緊張で頭がおかしくなったかしら?今日は私たちのお父様の誕生日でしょう。そのお祝いを兼ねて満を辞してあなたのデビュー、って決まったでしょ」
人魚姫のデビュー。なんか、童話でこんなのあったな、と脳の引き出しを必死に探る。
「えっと……これ……あれだ」
「は?」
人魚姫のお話だ。
「……ここって、海の底?」
「当たり前でしょ……やっぱり頭打ったの?」
「いや………」
人魚姫は悲しいお話だったはず。最後は泡になって消えて……。絵本では王子様と幸せになるってのもあったけど。
「……なんか……これ厄介事の予感かな……?」


彼女も、ヘンテコなおしゃべりウサギに会って教わった。
──────ワンス・アポン・ア・タイム─────
そして、唱えたのだ。
おとぎの国へのパスワードを。