夢に出てきた白ウサギ。
ウサギは、暗闇の中に出てきて、白い光の中に消えて行った。そのウサギの姿は今も頭から離れない。なんて言ったって、喋っていたし、服もちゃんと着ていた。しかもめちゃくちゃ紳士な感じの、質のよい服だった。
タキシード姿で───あれ?なんかこんな感じのウサギって……なにかの物語の中で案内役していたような───?
私はなぜだか霞んでいる脳を必死に回そうとするが、その『なにかの物語』が全く思い出せない。
いや、もっとやばいことが気が付いた。

自分の名前が思い出せない。

「あ、あれ?私の名前って!?しかもここどこ!?こんな大草原の真ん中で私なにしてるの!?」
緑豊かな草原の中で、そんな風に焦っていると脳内でピコン、と機械音のようなものが響いて、目の前に薄い板のような黒い何かが浮き上がった。そこには、文字が書いてあって。
「えっ……と……?────シラユキ、ヒメ……白雪姫……?」
白雪姫というと、あの白雪姫だろうか。継母となった女に渡された毒りんごを食べて死んだかと思われたが、最終的には王子様に助けられて幸せになる、あの。
私は首を捻った。この『白雪姫』という文字がなにか私に関係あるのだろうか。この場所ともなにか関係があるのかもしれない。
うーん、と風になびいている長いスカートをピラピラといじる。
(……ん?長いスカート?)
自分の服装を見てみる。すると、そのスカートはよく童話の中のお姫様が来ているようなフワッとしたドレスのような────というかドレス!!
(これドレスじゃん!?)
上質な生地で作られているようで手触りがとてもいい。そのドレスは、本当に白雪姫がいたら着るような可愛らしい黄色だった。そうだ、昔、絵本で読んだ『白雪姫』のドレスにそっくり。
「……?なんだろう……この既視感……?」
この私の今いるこの大草原のすぐ先には、森が広がっているようで、目の前は緑ばかりだ。
────まさか、……───?
私は胸に湧き上がるドキドキを抱えて、その森へと足を運ぶ。
────まさか、まさか────。
その森に足を踏み入れると、そこには、
「……家だ……」
(この家はきっと、小人たちの家なんだ……!)
『白雪姫』のお話からすると、姫はこのまま家の中に入って小人たちのご飯を食べてねむりこけてしまう。
そして、私のお腹はタイミングよくぎゅるるる、と鳴った。
「……やっぱり、私って」





─────白雪姫………?




そうだ、思い出した。
私は唱えたんだ。
『マホウのコトバ』を。



─────ワンス・アポン・ア・タイム────昔々、あるところに─────