だが私は、
それが決して叶うことのない想いだとも知っていた。

なぜなら社長は、
自分を棄て、親友の元に走ってしまった奥様をまだ愛していらっしゃる。

だからこそ、
並外れた容姿、財力、地位の全てを持つ彼は、目の眩むような美女に言い寄られても、素晴らしい良縁をお薦めになられても、決して首を縦に振ろうとはなさらない。

そうして仕事はもちろん、身の回りのお世話の全てを、私に一任なさるのだ。  


ふとした時、冷たい色をした瞳が遠くの空を切なげに見つめる姿。
彼の気持ちを思うにつけ、私はいつも胸を痛めた。


限界だと思った。


この苦しみから逃れたい___


かといってもう、
社長以外の方に仕える気はない。


追い詰められた末の、
いわば逃げの “結婚” という選択肢だった。