慌てて持上げた私のグラスに、彼のそれが合わさった。

チリーン。

クリスタルグラスが、ベルのように澄んだ音を奏でる。

しばらくは穏やかで楽しい時が続いた。

が……


「時に長澤君、来栖室長から聞いたんだがね…」

「はい?」

しばらくすると、機嫌良く話をしていた社長がふと険しい顔つきをした。


「君、婚活を始めたそうじゃないか。
セクレタリー道一筋の君が、どういう心境の変化だい?」

ブルーグレーの瞳が、射るように私を見つめる。

「え…、ええっ…と」

もう、室長のお喋り。
社長に話してしまうなんて!

心の中で罵りながらも、私は繕い笑いを浮かべた。

「実は……そうなんです。
“孫の顔が見たい” 
だなんて田舎の母が薦めるもので…
まあ私ももう33になりますし。
フフ、可笑しいですよね」