聖夜の奇跡

「妻が出ていってからは、頼んでもない身の回りの世話までし始めて。
……いつからだろう。
そんなお節介が、嬉しいと感じるようになったのは。
執務室に活けてあるブーケや、寝不足の朝のコーヒーの香りに癒されるようになったのは。

今ではもう…
なくてはならない存在になっている」

再び私の両手を握る。

「社長…」

「欲しいものは何としても奪うのが信条だ。
僕は……仕事ばかりのつまらない男だ。
今は考えられないかもしれないが、きっと君に僕を選ばせてみせる」


私はもう、彼の強い眼差しを正視することが出来なかった。


彼の胸にフラりと倒れ込むと、
長い腕がそっと私の背に回った。

「つまらないだなんて……社……わ、私。
本当はずっと貴方の事を……
でも、社長は…ずっと奥様を想っておられて…好きになってはいけないと。
…私…辛くて。貴方から逃げ出そうと…」


ショートボブの髪をゆるやかに撫でていた手が、ピタリと止まった。