「この前は売り飛ばすと言ったが、あれはなしだ。お前は一生、ここで家政婦をしてもらう。逃げなければ悪いようにはしない。だが、次逃げたら、その時は覚悟しろ」

最後にその一言を残して部屋を出ていった季龍さん。

その姿が見えなくなった瞬間、身体中に張り付いてきた威圧感が消え、起き上がったはずなのに、倒れそうになる。

咄嗟に畳に手をついたけど、息が上がり、ガタガタと体は震えだす。

「っはぁ、はぁ…あ…あ…」

―モウアエナイ。

いや…。

―モウニドト、アエナイ。

いや…嫌、嫌、嫌。

ドウシテ、コンナコトニ…。ドウシテ、ワタシガ…。

せり上がってきた吐き気に、口を押さえてうずくまる。

『琴葉…』

目の前に映ったのはお坊っちゃま。

その顔が、歓喜の色に染まる。

『俺の、琴葉…』

伸ばされた手に、体が熱くなる。虫がはい回るような感覚が体を襲った。

「…いやぁぁあああ!!!!!」

お願い。お父さん助けて…。

助けてくれないなら、お母さん。私を連れていって…。