「1億」

画面に表示された金額を繰り返す。

こんな、馬鹿げた値段を打ち出した者を探す視線が一身に突き刺さる。

それらの視線を無視し、階段を下り、舞台に近づいていく。

この女を落札しようと躍起になっていた2人の男を見下ろせる場所で足を止め、この場を仕切る司会者を睨む。

「1億だ」

再び繰り返し、反応を待つ。

静まり返っていた会場が少しずつざわつきを取り戻していく。

「あの小僧は誰だ」

「1億だって?値段間違えてんじゃねぇのか?」

「どこのもんだ」

ざわつきは、懸念と軽蔑。俺の正体を探る馬鹿げた視線。

いくら見たって分かるわけがない。知るはずがない。俺の存在はまだ公表すらされていないのだから。

「ッチ…1億…」

「1億5000万!」

「っ…」

高身長の男の言葉を遮り、一気に上げる。

細かく上げれば、それに対抗され、値段は上がる。だが、一気に上げれば、意表を突き、その値段への抵抗が生まれる。

奴らが争っていた値段の3倍近い金額に膨れ上がったこの現状に、奴らは戦意を喪失させる。