『1億』

でかでかと写し出された金額は確かにそう書かれていて、言い争っていた2人も、観衆も、突然写し出されたその金額に虚を突かれていた。

「だ…誰だ!こんな金額!!」

長身の男が声を上げたと同時に、会場がざわつきに包まれる。

誰しも、あの女に1億という金額をかけた人物を探すようにその視線を迷わせている。

「…わ、若…」

「あ?」

振り返ると、口をパクパクさせて俺の後ろを指差してやがる。

それにしたがって振り返ると、俺が先程渡した端末が入札画面に切り替わり、そこにはスクリーンと同じ1億の数字が表示されている。

「希龍、2億だ。落とせ」

先程までの穏やかな雰囲気が消え去った男の顔は、この世界を影で牛耳る者の姿。

そんな姿に身が震えた。

「親父、いくらなんでも…」

「こんな薄汚い場所にわざわざ足を運んだ意味を考えろ。同じ轍は踏まん」

「…承知」

今だざわつく会場。席を立ち、通路に出る。