正気に戻った俺は、二人きりを叶えるべく爽ちゃんを抱えた。

「きゃっ。」

悶えていた俺が突然抱き抱えた事で、爽ちゃんは呆気にとられてされるがままになっていてくれたが、周りの野郎共からブーイングが収まらなかった。

「柊、風深さんになにしてんだ。」

「うるせー野郎共。ばーかばーか。」

天が居れば「餓鬼かよ。」なんて突っ込まれていただろう言葉を置いて、爽ちゃんを抱えたまま校内へ逃げた。

校舎の中には余り人は居なく、中で模擬店を開いているクラスの声が校舎に響いていた。

「さ、爽ちゃん?」

全力で外から逃げたからか、爽ちゃんは俺の首にしっかりとしがみついていた。ぎゅうぎゅうとしがみつく爽ちゃん。

何度呼び掛けても返答はなかった。

「爽ちゃーん。」

「…く、暮くん…意地悪しないって、言った、のに。」

「意地悪してないよ。」

「突然これは、恥ずかしいよ…。」

抱き抱えているからか、いつもより近くにある爽ちゃんの顔が、頬を膨らませて答えた。むすっと怒る珍しい表情は、泣き顔ばかりしかない脳内フォルダーにまた上書きされていく。

「ごめんごめん。…俺も、二人きりになりたかったから。」

「っ…いいよ。」

下ろしてとは言わず、ずっと抱き着いていてくれる爽ちゃん。幸せを感じてフフと笑えば、頬を膨らませたままの爽ちゃんが小さく「ばか…。」と呟いたから、急いで脳内保存を成功させた。

昔の爽ちゃんなら、絶対俺に言わなかった言葉。それを聞けるようになった今の関係にまた喜びを感じて、「ありがとう。」と伝えた。

「爽ちゃん、好きだよ。俺マジで幸せ…。」

「…私も、暮くんが大好きだよ。」

いつもの空き教室で、床に座り足の間に爽ちゃんを入れる。後ろから抱き締めるように二人で座れば、爽ちゃんに抱き締めて貰った分を返すように、俺もぎゅうぎゅうと抱き締めた。



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