細い腕が、俺の背中を優しく抱き締める。

「私、大樹とは別れたの。」

爽ちゃんはゆっくりと言葉を紡いだ。

「それもね、ついさっきの事なんだ。酷いでしょ。別れた理由もね、好きな人がいることにさっき千秋ちゃんや蒼野くんに気づかせてもらったからなの。」

「…。」

肩に触れて体を離せば、爽ちゃんは俯いたままこちらを見てはくれない。だけど、上げた髪から見える首筋や耳が真っ赤に染まっていて、爽ちゃんが照れていることはすぐに分かった。

(可愛い、爽ちゃんが照れてる。)

ずっと、爽ちゃんだけを見てきたから。

爽ちゃんの照れた時に見せる、耳まで真っ赤にする癖を、忘れるわけがない。

数年ぶりに見た光景を、懐かしみながらクスと微笑む。爽ちゃんがいつ赤く染まった顔をこっちに見せてくれるのかワクワクしながら、話を聞いた。

ーーー別に、フラれない自信があった訳じゃない。

横場と別れたと言った爽ちゃんが、その時強く背中を抱き締めたから、不安は無くなった。それだけだ。

多分、爽ちゃんは精一杯俺に堪えてくれようとしてくれてる。爽ちゃんなら、支えられてとかじゃなくて、背中を押してもらってとか。私なんかを、とか。色々考えて出した答えだろうから。それを今、俺に伝えてくれようとしてる事実があれば、それだけで満たされた気持ちになれた。

「爽ちゃんは最低なんかじゃないよ。昔から変わらない。俺が大好きな、優しくてか弱くて可愛らしい女の子だよ。」

「…暮くん…。ありがとう。私…いつからかは分からないけど…暮くんが好き。友達になれるだけで良いと思ってたから、暮くんが好きって言ってくれて、本当に嬉しかった。こんな私で良ければ、側に居てくれませんか…。」



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