「ここ座って。」

「うん…。」

屋上の隅へ連れて行かれ、置かれたベンチへ言われるままに座った。照りつける日差しが暑いのに、私は緊張から冷や汗が止まらなかった。

(何を言われるのかな…。)

数回の深呼吸の後、隣に座った千秋ちゃんは私を見やる。

いつもとは違う"私"と言う一人称と、メイクをしてくれた女の子達がかけてくれたラベンダーの香水がほのかに香って、嫌な予感は更に重くなった。

(暮くんにオッケーしてもらったとかかな。)

言い表せない感情が、胸を締め付ける。ズキズキと痛む理由は、考えても分からなかった。

それでも、この気持ちに気づいてはいけないと頭のどこかで警報が鳴り響く。

ーーーきっと、気づいてしまったら引き返せない。



ニコニコと笑う彼の顔がチラチラと浮かんでは、ラベンダーの香りで少し意地悪に微笑む彼へ塗り替えられていく。



「さやたん?」

無意識に目を強く閉じていた私を、千秋ちゃんが呼び戻してくれた。

ゆっくりと見据えた彼女の顔は、真剣なもので…すぐに視線を外してしまった。

(もし付き合ったと言われたら、なんてお祝いすればいいんだろう。おめでとう。良かったね。お幸せに。どれも違う気がする…。)

ーーーむしろ、私は本当に二人を祝福できるの?

「さやたん、あのね。私…、」

「…。」

「柊くんに告白したの。」

「うん…。」



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