二人がのほほんと話す内容も耳に届かず、爽ちゃんが人の前に出ることにただひたすら驚いた。

(生徒だけじゃなく、明日には一般の目に爽ちゃんが晒(さら)されてしまう。…そんなの、耐えられない。)

どろどろとした黒いものが体の中に巡る感覚がする。

今彼女の隣に居ることを許されてるのは、横場だけ。あれからも関係の続いてる二人の仲は俺には分からない。けど、最近の彼女は千秋ちゃんとも距離を取り、一人教室でぼうとどこかを眺めるだけ。クラスの連中とも上手くいっていない…その感じは、あの頃の彼女と変わらない。彼女が弱くなっていく原因。

「…横場。爽ちゃんどこいんの。」

「内緒。」

「横場!」

「言ったでしょ、俺は爽が好き。俺さ、誰にも渡さないし、爽を一人にはしないって約束したんだ。だから、内緒。」

「っ…もういい!」

「行ってらっしゃーい。」と声がするのを無視して、俺は走り出した。

何で人前に彼女が出ることになったかなんて考えても仕方ない。今はただ、側にいてあげなきゃいけない気がした。

「良いのか、大樹。」

「なーにがー。」

「あの二人をこれ以上拗らせると、チィに怒られるぞ。」

「良いんだよ。俺が救ってもらったんだ、爽も救われなきゃいけない。救えるのは、くーちゃんだけなんだから。」

「なら教えてやれば良かったじゃん、教室に居るって。」

「だーめっ。失恋したんだから、ライバルにこれくらいの意地悪は許してよ。」

「お前…本気で風深さんの事…。」

「…一目惚れなんて、ドラマみたいだよね。俺も自分で驚いちゃった。」

教室では、泣いてるイケメンをこれまたイケメンが抱き締めると言う光景に、女子が群がり輪ができていたらしい。



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