流れた髪を耳にかけ、見上げられた頭を撫でてやる。案の定不安そうに下げられ眉。撫でたことで安心したのか、チィはニコリと微笑んだ。
「大樹、」
「ヒロくん、」
チィに微笑み返して、タイミングを合わせた訳じゃないのに重なる声。大樹はゆっくりと顔を上げて、涙で歪んだ顔で飛び付いてきた。
「うわーんっ。」
今日は皆よく泣くな。なんて客観的に大樹を抱き締める俺も、さっき泣いてた事を思い出してクスっと笑う。
(人の事言えねえわ。)
三人で顔をボロボロにしながら抱き合った。小さいチィは潰されていたけど、満足気に俺達に挟まれてくれてたから多分良かったんだと思う。
(意外な所で俺達まで仲直りしてやんの。)
大樹に呼び出された時。正直暮人とチィを傷つけるかもしれない大樹を、俺は喧嘩覚悟で待っていた。今後三人で居れなくなるかもしれない。それでも、暮人も大事。どうしようかなんて悩んでいた。
それを、アイツの登場で両方救ってしまった。
(すげえなぁ…アイツ。)
後でDIME入れとこ。なんて考えて、未だ過去から抜けられずにいる弱い彼女を思う。
早く助けてやれよ、暮人。
彼女は、お前でしか助けてやれねえよ。
「帰ろ。」
ひとしきり泣き終えて、三人で笑った。いつのまにかしゃがみこんでいた俺達は、立ち上がって教室を後にする。今は文化祭の準備だけだから、鞄なんて持ってきてなかったし、ちょうどいいとそのまま玄関へ向かった。
職員室の開いた扉から見えた赤髪に、「アンタも早く、自分に素直になれよ。」と、らしくない言葉をかけ、そのまま帰路についた。
「お腹すいたね。」
「そうだなー…じゃあ、久しぶりに三人で飯作るか。」
「俺てんちゃんの手作りオムライスがいいなー。」
「あ、千秋も!千秋も食べたい!」
「千秋ー?チィは千秋でいいんですかー?」
「あっ、ちが、違うの!私!私って言うつもりだったの!」
「はいはい。じゃ、帰ろうか。」
いつのまにか東に傾き始めた太陽は、地面をジリジリと照らす。
新緑の夏。
俺達は、子供から大人へ歩き始めた。
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