凭れて居た背を壁から離し、小さい体は俺の前へ。

真剣な目と、ずっと赤い頬に、今から言われるであろう言葉が伝わってくるようだった。

小さい掌が制服のスカートをギュっと握る。力強く握っているのか、拳は小さく震えていた。

「多分、今から言おうとしてること伝わってると思うけど…千秋ね、ちゃんと顔を見て伝えたいなって。ちゃんと、柊くんの目を見てフラれたくて。千秋の勝手な自己満足になっちゃうけど、聞いてくれるかな…これで最後にするから。今の、素顔の柊くんに伝えて良いかな。」

姿勢を正し、ゆっくりと視線を絡める。「もちろん。」と伝わるように微笑めば、空で輝く太陽に負けない笑顔が返ってきた。

「柊くんは覚えてないと思うけど、千秋…いや、"私"の悪口を言ってた人達から、私を守ってくれてありがとう。例え柊くんは覚えて無くても、私はその時言ってくれた言葉が嬉しくて、あなたに惹かれて恋しました。好きです。んーん…、」

『好きでした。』

震える声でしっかり伝えてくれる言葉に、胸が締め付けられる。でも、一回目の時とは違う。顔と顔、見上げる瞳から今にも零(こぼ)れ落ちそうな涙は、満面の笑顔と共に下へ落ちていった。

「俺…好きな人がいるんだ。千秋ちゃんの気持ち、凄く嬉しい。それでも、あの子の事しか考えられないんだ。…こんな俺なんかを好きになってくれてありがとう。大事な気持ちを聞かせてくれてありがとう。爽ちゃんと友達になってくれて、ありがとう。」

「ふふ、何で柊くんがお礼言うのかな。さやたんと私は、柊くんがいなくてもお友達だよ。」

「ん、はは、そうだね。」

眩しい光が、体育館の影になったこの場所をチラチラと照らす。緑の芝生のなか太陽へ向かって歩く千秋ちゃんは、ツインテールをほどいて髪をとかした。風に靡(なび)く髪は、千秋ちゃんの決意のようで、光の元へ出た彼女の背には、目映い光と共に白い羽根が生えたような錯覚を起こさせた。



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