眼鏡を外し、落ち着くように髪をボサボサにする。「あーっ。」と叫びながらそれをしたからか、落ち着いた筈の千秋ちゃんが小さく肩を揺らした。

「ごめん、千秋ちゃん。取り乱しちゃって。」

「だ、大丈夫。千秋こそ、なんかごめんね。」

ハハっと空笑いが漏れる俺を、千秋ちゃんはまた眉を下げて見つめた。本来の目的を忘れて千秋ちゃんを怖がらせてしまった事実に、ちゃんと俺は笑えていたのかな。

制服のポケットに眼鏡を乱雑にいれて、天が持っていたワックスで髪を纏める。いつものモサッとした姿から変身した俺に、千秋ちゃんはポカンと口を開けてフリーズしていた。

「チィ、口開きっぱになってる。」

「へ…?あ、わわっ、ごめん。」

「ちゃんと千秋ちゃんの前で顔出すの、これが初めてだもんね。驚いた?」

「少しだけ、ビックリしたけど…柊くんと目を見てお話しできるの、嬉しい。」

「ありがとう。」

初めて、千秋ちゃんの綺麗な笑顔を見た気がした。それは、いつもあるはずの物が無いからなのか、本当の笑顔を今初めて見せてくれたからなのかは俺には分からない。だけど、千秋ちゃんの隣に立つ天が優しく微笑んでいたから、答えはそれだけで良いと思えた。

それから、三人で他愛もない話を繰り広げる。



素を見せて笑って、笑って、三人の間に流れる空気は、夏の午後と同じくらい暖かかったーーー



「…悪い、呼び出し来たわ。ワリーけど、先行くな。」

「イケメンは大変だな。いってら。」

「てんてん…千秋も、」

「チィは暮人とまだ話してな。早く終わったら戻ってくっから。」

「ぅ、うん。分かった。」

体育館の壁に凭れて三人で話す。その時震えた天の携帯は、本人曰く"呼び出し"らしくて、千秋ちゃんを挟んで立っていた俺には内容を伺うことは出来なかった。

でも千秋ちゃんは違ったようで、横目でスマホの中身を見たのか不安の色が表情に見てとれる。

天もそれが分かったのか、「大丈夫。」と立ち去る前に千秋ちゃんの頭を撫でて行った。



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