その後、彼について千秋ちゃんに教えてもらった。
名前、誕生日、仲の良い友達。好きな教科までどうやって知ったのかは、あえて聞かなかった。

「柊暮人(ひいらぎくれと)くん、か…。どっかで聞いた事あるような…無いような…。」

先に戻った千秋ちゃんに続くように、遠回りをしながら教室を目指す。聞いた名前を口ずさみながら、思い出せそうで思い出せないモヤモヤ感と戦っていると、曲がり角で人にぶつかってしまった。

「わっ…!」

倒れそうになった体を、力強い腕が引き寄せてくれた。転けるかと思った恐怖から、未だに目を開けれないでいる私を、優しく抱き締め、大きな掌で頭を撫でながらあやしてくれた。

懐かしいラベンダーの香りと、暖かい胸に抱かれて、ようやく落ち着いた。

「あ、あり、がと…。」

ゆっくりと瞼を開けば、目の前に居たのはさっきまで話題に出ていた彼。

「ご、ごめんなさい!」

急いで彼の腕から離れ、距離をとる。千秋ちゃんが居なくて良かった。と一息つけば、彼はまた「大丈夫。」と声をかけてくれた。

なんとも言えない沈黙が続き、改めてお礼を言ってその場を離れようとした時、彼が言った。

「ーーなぁ、アンタ…風深爽、だろ?」

『小学以来だな。』

眼鏡をとって、前髪をかきあげた彼は、思い出の中よりも少し大人びていて、唯一変わらない意地悪な笑みを見せて「久しぶり。」と笑った。


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