「泣き虫のくせに、変に気ぃ使ってこらえなくて良いよ。」

「ばっ…こらえてなんか、ねえ…!」

下を向いて目を見開きながら、涙が早く乾燥しないかと持ち前のドライアイを発揮する。だけど、打たれた胸は血の代わりにたくさんの感動を垂れ流していた。

「…別に、俺もお前との関係に気まずさを感じなかったわけじゃねえよ。」

髪の上から優しく下りてくる重さ。多分それは天の掌で、ゆっくりと子供をあやすように上から下へ繰り返される。

「…うん。」

「もちろん、チィが告白するなんて思ってなかったし。納得はできても、そのときは何でってずっと考えてた。クラスも違うのに、なんでチィはお前に惚れたのかなとかさ。でも、さっきも言ったとおり納得しちゃったんだよね。『ああ、お前だからか。』って。」

上を向きながら、目尻から静かに流れる雫を重力に従って落としていけば、天は笑っていた。

いつもの笑顔で。

「天…っ。」

その笑顔に、さらに涙は落ちていった。

「あー泣くな泣くな。…お前さ、チィに風深さんが好きって伝えてないだろ。だめだぜ、アイツ勘が良いから。お前が隠したつもりでも、アイツは気づいたらしいんだよね。そんで、『さやたんを傷つけてしまった。柊くんとさやたんの仲を崩してしまった。二人に合わせる顔なんて無い。』ってずっと泣いてんの。やっと楽しい楽しい夏休みになったのに、風深さんもチィもお前も俺も、みーんな浮かない顔してんの。」

近くに置いてあったティッシュをとり、涙で濡れた顔を拭く。泣き顔じゃなく笑顔で天に「ありがとう。」と伝えるために。

「よし。」と向き直れば悪巧みをする子供のようにニシシと楽しそうに笑う天に、俺は伝えようとした言葉も忘れて、嫌な予感がする自室から、否天の前から逃げだそうと扉を目指したが、

「ふっふっふ。…だから天才な天くんは考えました。」

俺の行動は、後ろで得意気に笑う奴(天)によって遮(さえぎ)られてしまうのだった。



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