天は赤面したまま、あーだこーだと話を続ける。

その言葉の端々には、「心配だから。」や「腐れ縁だから。」と言う言葉が混ざっていた。それはまるで、自分に言い聞かせているように何度も何度も混ざっていた。

「じゃあ何だ。天は千秋ちゃんと幼なじみだから一緒にいるだけだって言いたいの?」

言い訳からワザと本心でもない事と言い続ける天に、さすがの俺も気づかない訳がない。

(千秋ちゃんに対する天の態度って…明らかに好きって滲(にじ)み出てたよな。)

天と二人で千秋ちゃんの家を訪れたあの日、千秋ちゃんの"変化"に気づいた天はふてくされていたんだ。だから、はじめの方に少し不機嫌(ふきげん)になった。

今考えると、あんな分かりやすい天は過去最高かもしれない。

「そう…じゃねえけど。」

「じゃあ何で隠すんだよ。俺ら親友じゃなかったんですかー。あーあ、寂しいなー。親友に隠し事されるなんてなー。さーみしーなー。」

何で天が隠すのかは分からない。それでも、親友だからこそ本人から直接聞きたかった。

(爽ちゃんのことでうじうじしてる俺を、いつも余裕ぶって応援してくれたのは天だ。)

「あー分かったよ!悪かったって!……好きだよ、チィの事。」

ーーーだから、俺も天の力になりたい。

「よし。じゃ、怒っていいんだぞ。お前には怒る権利があるから。」

「いや、怒るも何も暮人を好きになったのは他でもないアイツ自身だ。お前が、風深さんにしたみたいに無理矢理言い寄ったって言うならそれは制裁もんだけど。」

「もしそうだった場合何されんの俺!」

「IF(イフ)な、IF。"もしもあったら"の話だよ。実際はチィはお前に惚れて、お前は好きないる奴がいるからって断った。告白のタイミングや仕方はどうであれ、それに俺が文句なんて言えねえよ。俺も、あの日初めてチィの気持ちを知ってどうしようかと思ったけど…俺の大事な二人が惹かれあってたなんて、なんか凄くね?俺は小さい頃からアイツが好きだったし。正義感強いくせにヘタレなお前が大事だし。お前らの良いところは、誰よりも知ってるつもり。だから、チィがお前に惚れた意味も、もしその逆があったとしても、俺はそれだけで納得できるよ。って事で、怒るどーのはねえから。わかった?」

初めての言葉だった。

一発は絶対殴られる。と思いながら、じっと天の話を聞いていた俺に、天は意外と優しい本心をくれた。珍しい言葉に胸を打たれた俺は、熱くなった目頭を必死に押さえて涙をこらえる。

今、泣いていいのは俺じゃない。

天が話してくれたものには、千秋ちゃんへの大きな気持ちと、俺への友情が込められていた。だからこそ、俺は泣いちゃいけないんだ。今日何度目かの苦笑を浮かべて「暮人?」と俺を見やる天は、いつの間にか座椅子を離れ、俺の前に立っていた。



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