ーーーご飯出来たよ。

幻聴なのではと疑うような言葉が、今、目の前で爽ちゃんから発せられた。ズキズキと鈍い痛みを主張してきた胸は、欲張りなもので既に彼女の手料理へと期待で胸を高鳴らせる。

(中学に上がってから三年は顔を見てないけど、爽ちゃんが俺を避けるようになって三年以上は経ってる。そう考えると、この状況は幸せすぎるよな…。)

爽ちゃんの手料理を食べれる。その幸せを女の子と天に感謝し、天と一緒に台所からリビングへ移り、椅子に座る。

女の子達も料理を運び終えて、着席した。四席あるなかで、俺は天の。女の子は爽ちゃんの隣で座った。

ーー俺の目の前には爽ちゃんが座っている。

「ぁ、あの爽ちゃー」

「そう言えば、千秋は皆の事知ってるけど、皆ははじめましてだよね。あのねあのね、千秋はじめましてしたいなっ。」

髪が邪魔になるのか、天の幼馴染みは腕にはめていたゴムで二つに結ぶ。爽ちゃんが髪にしていたのは彼女のものだったのか、いつのまにか結ばれていた髪は綺麗にほどかれていた。

蛍光灯に反射する赤い髪。
髪を結ぶ女の子を見ながら、小さく笑う爽ちゃんはやっぱり可愛かった。



髪を結び終えた頃、それでは。と開口一番に女の子から自己紹介を始めたーーー



「八雲千秋(やくもちあき)です!てんてん…じゃなかった、天くんとは生まれた頃からずっと一緒で、仲良しなお隣さんです。クラスは1のAで爽ちゃんと一緒だよ。よろしくお願いします!」

見慣れたツインテールが目の前で揺れる。
この前の…。とまだ新しいうっすらとした記憶を呼び起こした。

「あれ…?君ってこの前購買で…。」

購買の前で揺れるツインテール。
メロンパンとカレーパンで迷ってた、爽ちゃんと仲良しの子。

(髪下ろしてるだけで全然雰囲気違うんだな。)

「お、おお覚えててくれたんですか!嬉しい…ぇ、えっと。カレーパン、凄く美味しかったです。」

「だろ?あれおすすめだから。数限定物だからあの時は本当に奇跡だよ。もし一人で買える自信なければ、ここのオバチャンキラーにお願いしてみると良いよ。すぐくれるぜ。」

「オバチャン、キラー?」

「オイ………まさかしなくても、それ俺の事じゃないだろうな。」

「そっか、あの時の子か。改めて宜(よろ)しくね、千秋ちゃん。」

「は、はい。柊くん!」

「スルーかよ…。」

緊張からかうっすらと頬を赤くする千秋ちゃん。恥ずかしかったのか、自分の分が終わって、ふう。と一息ついて笑っていた。

(自己紹介なんて入学した時以来で、しかも爽ちゃんのいる前でするなんて…。千秋ちゃんのがうつったのかな、俺も少し緊張してきた。)



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