「てんてん、いらっしゃ…っ!ひ、柊くん、ななな何で!」

扉の先から現れたのは、小さくて髪がふわふわとした女の子。俺の事を知っているような様子に首を傾げた。

「チィうるさい。近所迷惑だろ。」

「だ、だっててんてん。ぁ、あの柊くんが…あわわわ。さ、さやたーん!」

顔を真っ赤にして部屋に入っていった女の子。「え、俺なんかした?」と天に問えば、さっきまで嬉しそうだった天が、不機嫌な声色で「さあな。」と答えた。

彼女の行動の意味も、天の変化にも疎い俺は疑問符を浮かべ続けることしかできなかった。

「ま、とりあえず入ろうぜ。アイツが変なのはいつもの事だし。次はお前が驚く番かも知れねえしさ、しかえしに。」

首を傾げ続ける俺に、いつも通りに戻った天は、またニヤニヤと笑いかけた。

天に続いて家の中へ入れば、白い壁に蛍光灯のオレンジ色の光が反射して、暖かさを感じさせる。

「お邪魔します。」

台所へ移動すれば、リビングと一緒になったオープンキッチンが一番に出迎えてくれる。広いダイニングキッチンに、広い四角の机、四つ置かれた椅子は家族の暖かみをより一層感じさせた。目線を少し上に戻し、天の後ろから顔を覗かせる。キッチンに立っていたのは、さっきの女の子ともう一人ーーー。

いつも下ろしている髪を、横にひとつで束ねて首筋が際立っている。日頃かくれている白いうなじが目に入れば、数秒間そこを見つめてしまった。

俺が見ていたことに視線を感じてか、料理をして下ろされていた視線は俺を見据えた。慌ててずれた眼鏡をかけ直しそちらを見直せば、チラリと目に入るピンクのレースエプロンに「お嫁さんだぁ。」と頬を緩めた。

「って、違う!ちょっと来い、天。」

夢の世界へ旅立っていた意識をすぐに戻し、天を連れて廊下へ隠れる。俺に気づいた爽ちゃんは、大きな目をさらに丸く大きく見開いていた。

「な、驚いただろ?」

「確かに驚いたけどさ!な、何でここに爽ちゃんがいるんだよ!ただでさえ嫌われてんのに、またストーカーって怖がられたらどうするんだ…!」

「本音は?」

「エプロン姿超可愛かったです。」

「素直でよろしい。」

肩を組んで男二人でひそひそ話。廊下では低い男の声を小さくてもよく響かせた。

俺達の不振な行動に、心配してくれたのか女の子と爽ちゃんは二人で廊下へ来てくれた。

「どうしたの。」と言う声に慌てて離れて、正面から二人と対面すれば、小学校以来の彼女の私服姿に、少し胸がズキリと傷んだ。

ーー大人しかった爽ちゃんが着ていたのは、おさげ髪に少し丈の長いスカート、そしてTシャツの地味な物が多かった。でも今は、膝上のミニスカートに、体のラインが見えるピチッとした服。その上からつけられた少し大きめのレースエプロンは、幼少期とは違う…大人の女性らしさを際立たせて、彼女の成長を再確認させられた。



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