「で、そろそろ本題を言えよ。」
片付けを済ませ、俺はベッドに腰かける。
天は自分の身支度を済ませると言って、顔を洗って今は着替え中。外に出るわけでは無いが、さすがに客がいるのに寝巻きは駄目だろ。と真面目さを発揮していた。
「この前さ、お前俺に言ったじゃん。」
「え、何を?」
「このままじゃ爽ちゃんを取られるぞ。とかなんとか…。」
「………言ったっけ?」
「柊暮人編を読み直してこい。今すぐに。十一ページにあっから。」
「暮人…それはメタい。」
「お前が言うな!」
着替えが終わり、私服の天はピシッと校則通り着こなす制服とは違い、服の全てがダルダルとしていた。オシャレのセンスが乏(とぼ)しい俺には、多分これはカジュアルだな。くらいの知識しかない。だが、日頃から影で女子にイケメンと囁かれている天だからこそ、その姿も様(さま)になっていた。
ブイネックの二重になったティーシャツに、ダルダルのジーパン。それだけなのに、イケメン様には合うのだから、イケメンと呼ばれる人種は本当に滅びれば良いと思う。切実に。
「恐い恐い。何だこの回想は。」
「滅びろイケメン!」
「待てって、落ち着け暮人。で、どーすんの?取られない様に何か対策考えろとか、そんな感じ?」
「………………ドーシヨッカナ。」
「何も考えて無かったのかよ…。」
茶番も程々にして、天は真面目に考えてくれるようだ。…冗談混じりに話ながらも凄く悩んでいた俺には、一緒に考えてくれるのはありがたい事だった。
ーーー俺も別に、考えなかった訳ではない。
俺を怖がっていた爽ちゃんが、昔のように笑ってくれた。それだけで充分な筈なのに、ヘタレな俺はあの時の笑顔に今の貼り付けられたような笑顔がかぶってはため息をつくばかりだった。
構って欲しくて、からかってばかりいた俺の記憶のなかには、彼女の泣き顔ばかり。でも、時々見せてくれる笑顔がふわりと花を咲かせた様に綺麗で、それが見たくてまた泣かせてしまう。
ーーー笑顔のためにも、同じ過ちを繰り返したく無い。
だから俺は、今まで出来なかった事を彼女にたくさんしてあげたい。優しくて弱い彼女を守れるように。傍で、笑顔を見れるように。
「うーん…じゃあさ、こうすれば?」
「ん?」
「多分今のお前って彼女からすると、友達でも無いわけじゃん。」
「ウッ…。ずばっと言うなよ、泣きたくなるだろ。」
「まー聞けって。じゃあさ、改めて友達にでもなれば今よりは話しやすくなるんじゃねえの?」
.