トントン。

優しく響く音。

うっすらと目を開けば、いつの間にか夕日が静かになった教室を赤く染め上げていた。

眠たい目を擦りながら、音がした方へ体を起こす。眠気と戦っている頭は、まだ重たい気がした。

「あ、起きた?」

思考がはっきりしていない私に、音の主は少し離れた所から声をかける。窓際の机に座って、じっと夕陽を眺める姿は、絵画の様に幻想的だった。

「…話し合いは?」

「もうとっくに終わって皆帰っちゃったよ。君起きないし、俺も暇だったから待ってたんだ。でも良かったよ、自分で起きてくれてさ。」

トントンとリズムよく机に指が弾かれる。やっと目が覚めた私は、再度音の主を見やった。

「あっ、あなたは…。」

「ちゃんと話すのは初めてだよね、風深さん。」

すると、机に腰かけていたのは千秋ちゃんが連れて行った男の子だった。

クラスメイトだとは分かっていても、名前を知っているかと聞かれれば答えずらい。だけど、彼が教室にいるときは女の子達がうっすらと頬を染めて彼を見ていたことを知ってる。

「はじめまして。俺、横場大樹(おおばひろき)。さっきはチィちゃんを借りてごめんね。」

容姿端麗、成績優秀。そんな噂も、彼の周りではよく囁かれているものだった。

「チィちゃんって、千秋ちゃん?って、そうだよ。千秋ちゃんは?」

「俺と話し終わったらすぐ帰っちゃった。チィちゃんは相変わらずちっちゃくて可愛いよね。」

色素の薄い髪が、夕日に照らされて教室と同じ色に輝く。小さく笑った彼の頬もまた、同じ色に見えた。



.